プレスリリース 肝臓の再生を促す仕組みを解明―脳からの信号が、肝臓傷害時の命を守る―

平成30年12月14日プレスリリース

国立大学法人東北大学大学院医学系研究科
国立大学法人東北大学東北大学病院
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 肝臓が傷害された際に脳からの自律神経による信号が緊急的な肝臓再生を促進することを明らかにした
  • 神経信号が肝臓内の免疫細胞(マクロファージ)を刺激して肝臓再生を促進する仕組みを解明した
  • 神経信号がないと重症肝臓傷害の際の生存率が低下することを明らかとし、また、この仕組みを促すことで生存率を回復させることに成功した

研究概要

東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝科の今井 淳太(いまい じゅんた)准教授、井泉 知仁(いずみ ともひと)助教、片桐 秀樹(かたぎり ひでき)教授らのグループは、肝臓が傷害された際に脳からの神経信号が緊急に肝臓再生を促す仕組みを解明しました。また、これは、肝臓が傷害された際に命を守る重要な仕組みであることも明らかになりました。

肝臓傷害時には早い時期に急速な肝臓再生が起こることが知られています。また、老化するとこの急速な再生が妨げられると考えられています。しかし、この早い時期の急速な肝臓再生にどのような意義があるのか、またそれがどのような仕組みで起こっているのかはよくわかっていませんでした。

本研究では、肝臓傷害時の急速な肝臓再生は脳からの自律神経による信号が担っていること、またその神経信号が肝臓内の免疫細胞(マクロファージ)を刺激することで強く肝臓再生を促進することを解明しました。さらに、この神経信号がないと重症肝臓傷害の際の生存率が低下することも明らかになり、この仕組みを促すことで生存率を回復させることにも成功しました。本研究によって肝臓再生の新たな仕組みが明らかとなったとともに、老化のメカニズムの解明につながるものと期待されます。今回発見された仕組みを制御することで、重篤な肝障害の治療の開発や肝臓の癌などの根治をめざした治療法への応用にもつながるものと大いに期待されます。

本研究成果は、日本時間2018年12月13日19時にNature Communications誌(電子版)に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金および日本医療研究開発機構(AMED)「老化メカニズムの解明・制御プロジェクト」の支援を受けて行われました。

研究内容

肝臓切除後などの重篤な肝臓傷害時には、早い時期から急速な肝臓再生が起こり、その後緩やかな再生が続くことが知られています。また、老化しますとこの急速な再生が妨げられると考えられています。しかし、この早い時期の急速な肝臓再生にどのような意義があるのか、またそれがどのような仕組みで起こっているのかはよくわかっていませんでした。

本研究では、マウスの肝臓の70%を切除し重症の肝臓傷害を起こす実験により、脳からの信号が下記の仕組みで、緊急に肝臓を再生させることを解明しました。まず脳からの信号は、迷走神経注1という自律神経を用いて肝臓に届けられ、次に迷走神経はアセチルコリン注2という物質を分泌して肝臓内の免疫細胞(マクロファージ注3)を刺激しインターロイキン6 (IL-6)注4という物質の分泌を促し、さらにIL-6が肝臓細胞内のシグナル伝達経路(FoxM1経路注5)を活性化して強く肝臓の再生を促進することが明らかとなりました(図1)。今回解明された多段階の仕組みは、肝臓内に広く、また多数存在するマクロファージを刺激することで、神経信号を肝臓という巨大な臓器全体に効率よく伝達するために重要と考えられます(図2)。

さらに、この神経信号がないと重症肝臓傷害の際の生存率が低下すること(図3 上図)、また、その状態でFoxM1経路を活性化することで重篤な肝臓傷害の際の生存率を回復させることに成功しました(図3 下図)。

本研究によって、肝臓再生の新たな仕組みが明らかになりました。この成果は、肝臓疾患の病態を明らかとし治療法を開発することにもつながるものと考えられます。また、肝臓が老化をきたすメカニズムの解明にもつながることが期待されます。

さらに、肝臓癌などの肝腫瘍の場合には、癌を含んだ肝臓をいかに広く切除できるか、が再発を防ぐために重要ですが、今回発見された仕組みを制御することで、肝臓癌手術の際に広範囲の肝臓を切除することが可能となり根治に向けて切除手術後の合併症が少ない治療法の開発につながるものと期待されます。

図1_肝臓
図1.
迷走神経はアセチルコリンという物質を分泌して肝臓内の免疫細胞(マクロファージ)を刺激することで、マクロファージからのインターロイキン6 (IL-6)の分泌を促し、IL-6が肝臓細胞内のシグナル伝達経路(FoxM1経路)を活性化して強く肝臓再生を促進する。
図2.肝臓障害 
図2.
肝臓内に広く、また多数存在するマクロファージを刺激することで、神経信号を肝臓という巨大な臓器全体に波及させる多段階の仕組み
図3.グラフ上下
図3.
神経信号がないと重症肝臓傷害の際の生存率が低下し(上図)、その状態でFoxM1経路を活性化することで70%肝臓切除後という重症な肝臓傷害の際の生存率を回復させることに成功(下図)

用語説明

注1.迷走神経:
脳から出て全身の臓器の働きを調節している自律神経の一種。自律神経は交感神経と副交感神経に分類されるが、迷走神経は副交感神経に属する。
注2.アセチルコリン:
神経から分泌され、神経細胞同士の情報伝達に利用される物質を神経伝達物質という。アセチルコリンは脳のいくつかの部位で神経伝達物質として作用し、迷走神経からも分泌されることが知られている。
注3.マクロファージ:
肝臓内に多く存在する免疫細胞。物質を取り込んで貪食する機能を有するが、最近多くの新たな機能が明らかになっている。
注4.インターロイキン6 (IL-6):
ある細胞から分泌され他の細胞の機能に影響を与える物質をサイトカインという。IL-6はリンパ球やマクロファージから分泌されるサイトカインで免疫機能の調節など多くの機能を有する。
注5.FoxM1経路:
転写因子FoxM1が種々のタンパクを誘導して細胞増殖を引き起こす細胞内シグナル伝達経路。

論文題目

題目:
Vagus-macrophage-hepatocyte link promotes post-injury liver regeneration and whole-body survival through hepatic FoxM1 activation
著者:
Tomohito Izumi, Junta Imai1, Junpei Yamamoto, Yohei Kawana, Akira Endo, Hiroto Sugawara, Masato Kohata, Yoichiro Asai, Kei Takahashi, Shinjiro Kodama, Keizo Kaneko, Junhong Gao, Kenji Uno, Shojiro Sawada, Vladimir V. Kalinichenko , Yasushi Ishigaki, Tetsuya Yamada and Hideki Katagiri
日本語題目:
「迷走神経シグナルは肝臓マクロファージを介して肝臓傷害時の再生をFoxM1依存性に促進し生存を維持する」
著者名:
井泉知仁、今井淳太、山本淳平、川名洋平、遠藤彰、菅原裕人、木幡将人、浅井洋一郎、高橋圭、児玉慎二朗、金子慶三、高俊弘、宇野健司、澤田正二郎、ブラジミール・カリニチェンコ、石垣泰、山田哲也、片桐秀樹
掲載誌:
Nature Communications

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野
准教授 今井 淳太(いまい じゅんた)
電話番号:022-717-7611
E-mail:imai"AT"med.tohoku.ac.jp

取材に関すること

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最終更新日 平成30年12月14日