プレスリリース ワクチン開発ツール"ノロウイルスワクチンシーズ" デンカ株式会社とのライセンス契約締結

プレスリリース

日本医療研究開発機構
北里大学

ポイント

  • 北里大学の片山和彦教授とデンカ株式会社は、ノロウイルスワクチンシーズのライセンス契約を2018年10月に結びました。
  • ノロウイルスワクチンシーズを利用し、流行が想定されるノロウイルスのウイルス様中空粒子(VLP)※1を必要に応じて混合したワクチンの開発が可能になりました。
  • デンカ株式会社はこのシーズを独占的に利用し、植物体発現VLPをベースとしたノロウイルスワクチン開発に向けて検討を進めます。また、ノロウイルス抗原検出キットの改良にも利用し、性能向上に向けた検討を進めます。

概要

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(以下、AMED、理事長 末松 誠)の「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」で開発されたノロウイルスワクチンシーズについてのライセンス契約が、研究代表者の片山和彦(北里生命科学研究所ウイルス感染制御学I・北里大学感染制御科学府ワクチン学研究室 教授)とデンカ株式会社の間で、2018年10月1日付けで交わされました。デンカ株式会社はこのシーズを独占的に利用し注)、植物体発現VLPをベースとしたノロウイルスワクチン開発とノロウイルス抗原検出キットの性能向上に向けて検討を進めています。

我が国において、毎年冬季に流行するノロウイルス感染症、ノロウイルスによる食中毒は、国民の生活、経済活動に影響を与え続けており、ワクチンの開発に期待が寄せられています。ノロウイルスには5つの遺伝子グループがあり、ヒトに感染するのはグループⅠ、 Ⅱ、Ⅳの3つです。グループIには、GI.1-9の9種類(引用文献1)、グループⅡには、19種類(引用文献2)、グループⅣには1種類(引用文献1,2)と多数の遺伝子型があり、互いに抗原性が異なること、ノロウイルスを増殖できる培養細胞がないこと、感染モデル動物がないことから、ワクチンの開発は容易ではないとされてきました。

AMED新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「下痢症ウイルスの分子疫学と感染制御に関する研究」の研究代表者である前国立感染症研究所ウイルス第二部第一室室長 片山和彦(現 北里大学北里生命科学研究所ウイルス感染制御学I・感染制御科学府ワクチン学研究室 教授)らの研究班は、ノロウイルスと同じ形状・抗原性(免疫を誘導する力)を持ち、遺伝子を持たない中空のウイルス粒子(ウイルス様中空粒子;VLP)を大量に作製することに成功し、2016年時点で検出されたほぼ全ての遺伝子型に対応するVLPを作出しました。VLPは、遺伝子を持たないため感染して増殖する力はありませんが、接種した人体や動物に効率良く免疫を誘導できます。

VLPを用いたノロウイルスワクチンの開発、品質管理には、ワクチンに含まれるVLPを特異的に検出し、定量可能なモノクローナル抗体※2が必要です。そこで、研究班では、VLPをマウスに免疫して、各種遺伝子型のVLPに特異的に反応するモノクローナル抗体の作製にも成功しました。これらの成果により、「ノロウイルスVLPを特異的に認識するモノクローナル抗体を作出するハイブリドーマ※3」と「ノロウイルスVLPを作出可能な組換えバキュロシードウイルス※4」から構成される“ノロウイルスワクチンシーズ”が完成したのです。以上の成果により、研究開発に高い障壁のあったノロウイルスワクチン開発が可能になりました。

現在、デンカ株式会社により本シーズを利用した近年の主要流行遺伝子型に対するノロウイルスワクチンの開発が進められています。また、本シーズは、デンカ株式会社のグループ会社であるデンカ生研株式会社が開発・販売する “ノロウイルス抗原検出キット” の性能向上にも利用可能です。

さらに、開発・公開したノロウイルスの流行予測プログラム “NoroCast” version 1(引用文献3)は、ノロウイルス主要流行遺伝子型の予測精度向上を目指して、研究が継続されています。将来、 “NoroCast” を用いて、ノロウイルスの流行遺伝子型を予測し、流行が想定される遺伝子型のVLPを “ノロウイルスワクチンシーズ” から選択して混合するワクチンも開発可能になると思われます(図1)。


図1:ワクチンシーズ利用の模式図(一般的な利用方法)
国立感染症研究所の疫学データ→NoroCastで流行を予測→ワクチンシーズからVLPとモノクローナル抗体を選択→混合ワクチン

注:

ノロウイルスワクチンシーズは、国立感染症研究所ウイルス第二部へも譲渡され、国民生活の質の維持向上を目指した国立研究機関における生物製剤の国家検定業務、学術研究に活用されます。

研究協力者

本研究は、「下痢症ウイルスの分子疫学と感染制御に関する研究」研究班の班員、研究協力者の協力により行われました。

謝辞

名古屋市立大学鈴木善幸教授、疫学研究を率いていた木村博一室長(前国立感染症研究所感染症疫学センター第六室室長、現群馬パース大学教授)には、ノロウイルスの流行予測プログラムNoroCastの開発にご協力いただきました。

引用文献

  1. Kobayashi M, Yoshizumi S, Kogawa S, Takahashi T, Ueki Y, Shinohara M, Mizukoshi F, Tsukagoshi H, Sasaki Y, Suzuki R, Shimizu H, Iwakiri A, Okabe N, Shirabe K, Shinomiya H, Kozawa K, Kusunoki H, Ryo A, Kuroda M, Katayama K, Kimura H. Molecular Evolution of the Capsid Gene in Norovirus Genogroup I. Sci Rep. 2015 Sep 4;5:13806. doi: 10.1038/srep13806.
  2. Kobayashi M, Matsushima Y, Motoya T, Sakon N, Shigemoto N, Okamoto-Nakagawa R, Nishimura K, Yamashita Y, Kuroda M, Saruki N, Ryo A, Saraya T, Morita Y, Shirabe K, Ishikawa M, Takahashi T, Shinomiya H, Okabe N, Nawasawa K, Suzuki Y, Katayama K, Kimura H. Molecular evolution of the capsid gene in human norovirus genogroup II. Sci Rep. 2016 Jul 7;6:29400. doi: 10.1038/srep29400.
  3. Suzuki Y, Doan H. Y., Kimura H, Shinomiya H, Shirabe K, Katayama K. Predicting genotype compositions in norovirus seasons in Japan. Microbiol and Immunol. 60, 418-426, 2016.

用語解説

※1 ウイルス様中空粒子(VLP)
ウイルスと同じ形状・抗原性(免疫を誘導する力)を持ち、遺伝子を持たない中空のウイルス粒子です。ウイルスを形作るタンパク質を昆虫の細胞や、植物で大量に合成することで、ウイルスと同じ形状のVLPを作製することができます。
※2 モノクローナル抗体
VLPを混合するワクチンでは、どの種類のVLPが、どれぐらいの量、どれぐらいの割合で混合されているのかを確かめる必要があります。VLPを免疫した動物の体内では、抗体を作る細胞によってVLPに対する抗体作製が始まります。一つの細胞からは、一種類の抗体が産生されます。免疫した動物の血清には複数の細胞(ポリクローナルな細胞)から作られた多種類の抗体(ポリクローナル抗体)が含まれています。つまり、VLPの色々な部分に結合する複数の抗体が混ざった状態なのです。抗体によっては、他の遺伝子型のVLPに反応してしまうものもあるため、VLPの量や混合比を正確に計ることができません。モノクローナル抗体とは、一つの細胞クローンから作り出される単一種の抗体です。各種遺伝子型特異的に反応するモノクローナル抗体を用いれば、VLPの種類、量、混合割合を精度良く検出することができます。
※3 ハイブリドーマ
モノクローナル抗体を産生することのできる細胞クローンのこと。いわばモノクローナル抗体のシード細胞。ハイブリドーマを特殊な培地やマウス腹腔内で培養するとモノクローナル抗体が多量に産生されます。
※4 組換えバキュロシードウイルス
VLPを昆虫細胞に大量に作製させるためには、ウイルスを形作るタンパク質(例えば、ウイルスキャプシドタンパク質)の遺伝子を、昆虫細胞に感染するバキュロウイルスに遺伝子組換え技術を使って組み込みます。この組換えバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させると、昆虫細胞内で組み込んだ遺伝子からタンパク質が多量に合成され、VLPが大量に作製されます。この組換えバキュロウイルスのことを“VLPの種”の意味を持たせ“組換えバキュロシードウイルス”と言います。

お問い合わせ

研究内容、ライセンス契約について

北里生命科学研究所ウイルス感染制御学I・北里大学感染制御科学府ワクチン学研究室
教授 片山和彦
〒108-8641 東京都港区白金5-9-1
TEL: 03-5791-6468
E -mail:katayama"AT"lisci.kitasato-u.ac.jp

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日本医療研究開発機構 戦略推進部 感染症研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
Tel:03-6870-2225
E-mail:kansen"AT"amed.go.jp

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日本医療研究開発機構 経営企画部 企画・広報グループ
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
Tel:03-6870-2245
E-mail:contact"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス"AT"の部分を@に変えてください。

掲載日 平成31年1月10日

最終更新日 平成31年1月10日