プレスリリース 高齢者における複数の慢性疾患併存の社会的影響―年間医療費のみならず年間介護給付費も高額―

プレスリリース

国立大学法人 筑波大学
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

  1. 高齢者における複数の慢性疾患の併存(多疾患併存)は、年間医療費のみならず年間介護給付費の増大とも関連があることを示しました。
  2. 高齢者における多疾患併存が社会全体に与える経済的負担を評価する際は、医療費と介護給付費の両者を含めるべきであるとの示唆が得られました。
  3. 医療・介護保険のレセプトデータを個人レベルで突き合わせ、匿名化された状態で研究利用することで、高齢者の医療・介護にまたがる医療経済研究が可能となりました。

概要

国立大学法人筑波大学ヘルスサービス開発研究センター 森隆浩准教授(東千葉メディカルセンターとのクロスアポイントメント)、田宮菜奈子センター長/教授らは、東京大学、東京都健康長寿医療センターとの共同研究により、千葉県柏市の後期高齢者医療レセプトと介護レセプトのデータを突き合わせた分析研究を行いました。

後期高齢者において多疾患併存の度合いが高いほど、年間医療費のみならず年間介護給付費も高額であり、結果として年間医療・介護給付費の合計も高額であるという結果が得られました。

本研究成果は、BMC Geriatricsに2019年3月7日付(日本時間午前10時)で公開されます。

*本研究はAMED長寿科学研究開発事業「医療介護情報の連結方法の検証とロジックの構築及び医療介護の地域差分析:効果的な医療―介護の二次データ活用システム構築のためのヘルスサービスリサーチ」(研究代表者:田宮 菜奈子)の支援を受けて実施されました。

研究の背景

我が国の年間国民医療費は42.1兆円を超え、年間介護給付費は10兆円に迫っています(2016年度)。しかも、さらなる高齢化率の上昇で、それらの額は今後ますます増大することが予想されています。したがって、持続可能な医療・介護保険制度を実現するためには、医療費・介護給付費の増大をもたらす要因を同定し対応することが重要となります。日本以外のOECD諸国からは、高齢者の多疾患併存は医療費の増大と関連すると報告されております。しかしながら、高齢者の多疾患併存と介護給付費との関連、また医療費・介護給付費の合計との関連を調べた先行研究は、本研究グループの知る限り世界でもありません。今回、多疾患併存の指標としてCharlson Comorbidity Index(CCI)値(2011年に再評価された改訂版)を用いて、高齢者における多疾患併存と年間医療費・介護給付費の関係について研究しました。

研究内容と成果

本研究では分析データとして、千葉県柏市における後期高齢者の医療レセプトと介護レセプト(2012年4月から2013年9月まで)を用い、両者を個人レベルで突き合わせ、匿名化された状態で研究利用しました。研究対象は、少なくとも1回は医療保険サービスを使用し、かつ12ヶ月以上の追跡が可能な75才以上の後期高齢者としました(n=30,042)。2011年に再評価・改訂されたCCIには、慢性合併症を伴う糖尿病、心不全、腎疾患、肝疾患、慢性肺疾患、リウマチ疾患、認知症、片麻痺あるいは対麻痺、悪性腫瘍、AIDS/HIVが含まれ、各項目に重み付けがされてCCI値が算出されます。今回の研究では、CCI値を0、1、2、3、4、5以上に分類しました。

12ヶ月間の医療費・介護給付費の合計は平均で108.6万円でした(表参照)。多変量一般化線形モデルによる分析の結果、CCI値が1高いと平均年間医療費は15.7万円、平均年間介護給付費は12万円、また両者の合計は25.7万円高額でした(p < 0.001)。しかし同じ要介護度内であれば、CCI値と介護給付費との関連は認められませんでした。高齢者の多疾患併存が介護給付費の増大と関連している背景としては、多疾患併存を有する高齢者は元々介護のニーズが高い傾向にあり、要介護度の上昇に伴い利用限度額も上昇したため、結果として介護給付費が増大したという可能性が考えられます。実際本研究では、CCI値が高いほど、要支援・要介護状態でない割合が低く、要介護度5の割合が高いという結果も得られました(図参照)。一方で、供給が需要を規定している可能性(要介護度の上昇に伴い利用限度額上限まで介護給付費が使用される可能性)も考えられます。

以上の結果より、高齢者の多疾患併存は年間医療費のみならず、年間介護給付費の増大とも関連していることがわかりました。介護レセプトには疾患に関する情報は含まれておらず、本研究では医療レセプトと介護レセプトのデータを突き合わせることにより、高齢者の多疾患併存と年間医療費・介護給付費に関する、研究グループが知る限り世界で初の知見を得ることができました。

今後の展開

医療・介護データベースの全国レベルでの連結が予定されており、今回の研究が全国レベルのデータを用いた医療経済的研究が進むきっかけとなることが期待されます。

参考図

表:年間医療費・介護給付費の内訳(n=30,042)
年間医療費・介護給付費の合計 108万6千円
年間医療費 71万6千円
  入院 32万2千円
外来(薬剤費を含む、歯科は含まず) 39万4千円
年間介護給付費 37万円
CCI値が0点の場合、要支援・要介護状態でない割合と要介護度5の割合がそれぞれ82.2%と1.6%であったのに対し、CCI値が5点以上の場合、それらの割合は54.7%と6.6% (n=29,915)。
※ 要支援、要介護1―4は図には含まれていない。

掲載論文

題名
The Associations of Multimorbidity with the Sum of Annual Medical and Long-Term Care Expenditures in Japan
(日本における多疾患併存と年間医療費及び年間介護給付費との関連)
著者名
Takahiro Mori, Shota Hamada, Satoru Yoshie, Boyoung Jeon, Xueying Jin, Hideto Takahashi, Katsuya Iijima, Tatsuro Ishizaki, Nanako Tamiya
掲載誌
BMC Geriatrics
DOI
10.1186/s12877-019-1057-7

お問合わせ先

研究内容に関するお問い合わせ先

森 隆浩(もり たかひろ)准教授
田宮 菜奈子(たみや ななこ)教授
筑波大学ヘルスサービス開発研究センター
〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1

AMED事業に関する問合わせ先

日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 脳と心の研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞ビル
TEL:03-6870-2222
E-mail:brain"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス"AT"の部分を@に変えてください。

掲載日 平成31年3月7日

最終更新日 平成31年3月7日