プレスリリース 統合失調症の予測モデルを構築!―バイオマーカーの実用化に期待―

平成31年4月22日プレスリリース

名古屋大学
名城大学
日本医療研究開発機構

名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・門松健治)精神医学・親と子どもの心療学分野の尾崎 紀夫(おざき のりお)教授、國本 正子(くにもと しょうこ)客員研究者、Aleksic Branko(アレクシッチ ブランコ)准教授(責任著者)、医療薬学講座の永井 拓(ながい たく)准教授らの研究グループは、名城大学薬学部の野田 幸裕(のだ ゆきひろ)教授、吉見 陽(よしみ あきら)助教、山田 真之亮(やまだ しんのすけ)研究員の研究グループと共同で、統合失調症患者と健常者の末梢血液からヒトリンパ芽球様細胞株※1を作製して、タンパク質の発現変化を網羅的に解析した結果、統合失調症のバイオマーカー※2候補となるタンパク質を複数同定しました。最適な組み合わせを検証し、タンパク質の発現量を測定して4および6因子から成る予測モデルを作成しました。

統合失調症は発症してから治療開始までの期間が長いほど、治療効果が十分に発揮されず、社会的な機能が低下してしまうため、早期に治療を開始することが重要とされています。統合失調症は脳の機能障害を原因とする疾患ですが、脳内の分子レベルの変化を評価することは困難なため、客観的な検査法が確立していません

本研究グループは、統合失調症バイオマーカーを探索するために、統合失調症患者と健常者からリンパ芽球様細胞株を作製してタンパク質の網羅的発現解析を行いました。その結果、統合失調症において発現変化が認められたタンパク質を22種類同定し、8種類についてタンパク質の発現変化を再確認しました。そのうち、4および6因子から成る統合失調症予測モデルを作成しました。同定されたタンパク質は、神経炎症や免疫系の調節異常などの統合失調症の分子病態※3と関連していること、疾患モデルマウスの脳内で炎症関連遺伝子の発現が変化していたことから、病態生理※4を反映している可能性があります。

以上の成果は、統合失調症の病態生理に基づく診断法の開発や発症メカニズムの解明の手がかりとなり、客観的な指標を用いた診断法の社会実現が期待されます。

本研究成果は、2019年4月22日付(イギリス時間午前1時)の国際科学誌「Translational Psychiatry」オンライン版に掲載されます。

ポイント

  • 統合失調症は発症してから治療開始までの期間が長いほど、治療効果が十分に発揮されず、社会的な機能が低下してしまうため、早期の治療介入が重要とされています。統合失調症は脳の機能障害を原因とする疾患ですが、脳内の分子レベルの変化を評価することは困難なため、客観的な検査法が確立していません。
  • 統合失調症患者と健常者から、リンパ芽球様細胞株を作製してタンパク質の網羅的発現解析を行い、統合失調症バイオマーカーの候補として22種類のタンパク質を同定しました。
  • 統合失調症バイオマーカーの組み合わせとして、4および6因子から成る予測モデルを作成しました。
  • 同定された統合失調症バイオマーカーの候補タンパク質は、神経炎症や免疫系の調節異常などの統合失調症の分子病態と関連していることから、病態生理に基づく診断法の開発や発症メカニズムの解明の手がかりとなり、客観的な指標を用いた診断法の社会実現が期待されます。

背景  

統合失調症は発症してから治療開始までの期間が長いほど、治療効果が十分に発揮されず、社会的な機能が低下してしまうため、早期の治療介入が重要とされています。統合失調症は脳の機能障害を原因とする疾患ですが、脳内の分子レベルの変化を評価することは困難なため、客観的な検査法が確立していません。診断は医師の問診や患者の訴えを基にした症候学に基づいて行われることから、症状がはっきりしない発症早期には診断や治療導入が遅れることがあり、結果として治療に難渋してしまうことが少なくないのが現状です(図1)。


図1:統合失調症診療における問題点

研究成果 

統合失調症バイオマーカーを探索するために、統合失調症患者と健常者から採血して、リンパ芽球様細胞株を作製し、培養条件の統一により健康状態、食事、薬、概日リズムなどの影響を低減した状態でタンパク質の網羅的発現解析を行いました(図2)。その結果、統合失調症において発現変化が認められたタンパク質を22種類同定し、8種類(MX1、GLRX3、UROD、GART、MAPRE1、TBCB、HSPA4L、IGHM)についてタンパク質の発現変化を再確認しました。そのうち、4因子(MX1、GLRX3、UROD、GART)および6因子(MX1、GLRX3、UROD、GART、MAPRE1、TBCB)から成る統合失調症予測モデルを作成しました(図3)。同定されたタンパク質は、神経炎症や免疫系の調節異常などの統合失調症の分子病態と関連していること、統合失調症モデルマウスの一つであるpolyI:C処置マウス※5の前頭前皮質※6および海馬※7Mx1や他の炎症関連遺伝子の発現が変化していたことから、脳の病態生理を反映している可能性があります。


図2:統合失調症バイオマーカーの同定

図3:統合失調症と健常者を判断する予測モデル

今後の展開

本研究は、末梢血液から作製したリンパ芽球様細胞株において同定された統合失調症バイオマーカー候補が、中枢の分子病態を反映している可能性の一端を示した成果であり、病態生理に基づく診断法の開発や発症メカニズムの解明の手がかりになると考えられます。今後、バイオマーカー候補と病態生理との関連性を明らかにするとともに、汎用性の高い血液検査への応用を検討することにより、客観的な指標を用いた診断法の社会実現が期待されます。

用語説明

※1.リンパ芽球様細胞株
Bリンパ球にヘルペスウイルスの一種であるエプスタイン-バールウイルスを感染させて作製される自律増殖能を有する細胞株のこと。
※2.バイオマーカー
血液や体液などに含まれている成分の量や濃度および生体の機能や運動の程度などから、生命体の状態や病気の症状および治療に対する反応性の程度を客観的に判断・評価するための指標のこと。
※3.分子病態
分子のレベルから明らかになった病気が発症および進行するメカニズムのこと。
※4.病態生理
生体の正常機能が破綻することにより引き起こされる症状や病気の発現メカニズムやその経過のこと。
※5.polyI:C処置マウス
ICR系マウスに生後2~6日目の5日間、合成2本鎖RNAアナログであるpolyriboinosinic-polyribocytidilic acid(polyI:C、5 mg/kg)を皮下投与することにより、成長後に不安様行動、認知機能障害、および社会性行動障害を示す周産期ウイルス感染モデルを作製した。
※6.前頭前皮質
大脳前頭葉の前方にある領域で、複雑な認知行動、性格、意思決定、および適切な社会的行動の計画や実行に関与する。
※7.海馬
大脳側頭葉の内部にある領域で、学習能力や記憶の形成に関与する。

発表雑誌

雑誌名:
「Translational Psychiatry」(イギリス時間午前1時)2019年4月22日付けの電子版に掲載
論文タイトル:
Proteomic Analysis of Lymphoblastoid Cell Lines from Schizophrenic Patients
著者:
Akira Yoshimi, Ph.D.1,2,3¶, Shinnosuke Yamada, Ph.D.1,2,¶, Shohko Kunimoto, Ph.D.3,¶, Branko Aleksic, M.D., Ph.D.3,*, Akihiro Hirakawa, Ph.D.4, Mitsuki Ohashi1, Yurie Matsumoto1,3, Kazuhiro Hada2, Norimichi Itoh, Ph.D.2, Yuko Arioka, Ph.D.3,5, Hiroki Kimura, M.D., Ph.D.3,6, Itaru Kushima, M.D., Ph.D.3,6,7, Yukako Nakamura, Ph.D.3, Tomoko Shiino, Ph.D.3,8, Daisuke Mori, Ph.D.3,9, Satoshi Tanaka, M.D., Ph.D.6, Shuko Hamada, Ph.D.3, Yukihiro Noda, Ph.D.1,2,3, Taku Nagai, Ph.D.2, Kiyofumi Yamada, Ph.D.2 and Norio Ozaki, M.D., Ph.D.3,6
所属:
1Division of Clinical Sciences and Neuropsychopharmacology, Faculty and Graduate School of Pharmacy, Meijo University, Nagoya 468-8503, Japan; 2Department of Neuropsychopharmacology and Hospital Pharmacy, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan; 3Department of Psychiatry, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan; 4Department of Biostatistics and Bioinformatics, Graduate School of Medicine, University of Tokyo, 113-0033, Japan; 5Center for Advanced Medicine and Clinical Research, Nagoya University Hospital, Nagoya 466-8550, Japan; 6Department of Psychiatry, Nagoya University Hospital, Nagoya 466-8550, Japan; 7Institute for Advanced Research, Nagoya University, Nagoya 464-8601, Japan; 8Department of Pathology of Mental Diseases, National Institute of Mental Health, National Center of Neurology and Psychiatry, Tokyo 187-8553, Japan9Brain and Mind Research Center, Nagoya University, Nagoya 466-8550,Japan

These authors contributed equally to this work.

本研究への支援

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業「血液メタボローム解析による精神疾患の層別化可能な客観的評価法の確立と治療最適化への応用(精神疾患横断的な血漿を用いたバイオマーカー開発)」の支援を受けて行われました。

お問い合わせ先

研究内容

名古屋大学医学部・医学系研究科
精神医学・親と子どもの心療学分野
尾崎 紀夫
TEL:052-744-2282 FAX:052-744-2283
E-mail:ozaki-n"AT"med.nagoya-u.ac.jp

広報担当

名古屋大学医学部・医学系研究科総務課総務係
TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785
E-mail:iga-sous"AT"adm.nagoya-u.ac.jp

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最終更新日 平成31年4月22日