プレスリリース ディープラーニングによる内視鏡診断支援ソフトウェア(EndoBRAIN®-EYE)が医療機器の承認を取得

プレスリリース

学校法人昭和大学
国立大学法人名古屋大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 大腸の早期がんや前がん病変である腫瘍性ポリープを大腸内視鏡により早期発見・早期治療することは、大腸がんによる死亡の抑制効果があるとされていますが、一定の割合で病変の見落としがあることが大腸内視鏡検査の課題の一つでした。
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英特任教授らのグループは、名古屋大学大学院情報学研究科森健策教授らの研究グループと共同で、内視鏡画像を人工知能(AI)によって解析することで、画像中に病変が映っているかどうかを推測するソフトウェアを開発し、1月24日に医薬品医療機器等法に基づく承認を取得しました。
  • 開発したソフトウェア「EndoBRAIN®-EYE」が採用しているAIはディープラーニング注1と呼ばれる機械学習の一種であり、多くの画像を学習することで高い精度の解析が実現可能な手法です。
  • EndoBRAIN®-EYEはオリンパス社製の汎用大腸内視鏡(ハイビジョン画質以上)に使用可能であり、多くの内視鏡と組み合わせて使用することができます。

概要

昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英特任教授らが開発を進めてきた人工知能(AI)内視鏡画像診断支援ソフトウェア(EndoBRAIN®-EYE)が、臨床性能試験を経て、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」(以下「薬機法」という)注2に基づき、クラスII・管理医療機器注3として2020年1月24日に承認を取得しました。

研究の背景

大腸がんは日本人女性のがん死亡数の1位、男性でも3位と増加傾向で、効果的な対策が求められるがん種です。その対策として、大腸内視鏡で早期がんや前がん病変である腫瘍性ポリープを切除することで、大腸がんによる死亡を大幅(53-68%)に減らせることが知られています(Zauber et al. N Engl J Med 2012, Nishihara et al. N Engl J Med 2014)。しかし、1回の検査当たり腫瘍性ポリープの約22%が見落とされている可能性が指摘されていました (van Rjin JC et al. Am J Gastroenterol 2012) 。具体的には、大腸のヒダや便に隠れてしまって描出ができていない場合と、画面上にポリープが描出されていてもヒューマンエラーによって見落とされてしまう場合があります。昭和大学横浜市北部病院消化器センターは、特に後者による見落としを防ぐことを主眼として、名古屋大学大学院情報学研究科の森健策研究室(AIエンジン開発を担当)及びサイバネットシステム株式会社(以下「サイバネット」・システム化を担当)と連携して、医師による内視鏡検査を補助するAIを2013年より研究・開発してきました。2018年12月にはこの研究成果の第1弾として内視鏡画像を解析し、医師による診断を補助するソフトウェア「EndoBRAIN®注4」が薬機法に基づく承認を取得しています。

研究成果

今回開発を進めてきた内視鏡画像診断支援ソフトウェア(EndoBRAIN®-EYE)が、国内5施設(昭和大学横浜市北部病院、国立がん研究センター中央病院、静岡県立静岡がんセンター、東京医科歯科大学附属病院、がん研究会有明病院)の共同による臨床性能試験を経て、薬機法に基づき、クラスII・管理医療機器として承認(承認番号:30200BZX00021000)を取得しました。

EndoBRAIN®-EYEは、大腸内視鏡で撮影された内視鏡画像をAIが解析し、ポリープなどを検出すると警告を発し、医師による病変の発見を補助するソフトウェアです。設計上、あえて検出した病変の位置まで特定することはせずに、音と画面上の色によって医師に警告を発するにとどめています。これにより医師が診断する余地を残しつつ、検出を支援することが可能になり、医師の診断に寄り添った設計になっています。なお、本ソフトウェアはオリンパス社製の汎用大腸内視鏡(ハイビジョン画質以上)に導入可能であり、多くの内視鏡機種と組み合わせて使用することができます。

本ソフトウェアはAIの一種であるディープラーニングに基づき、前述の国内5施設から集積した動画から抽出された約395万枚の内視鏡画像を学習しました。臨床性能試験では感度95%、特異度89%注5の精度で病変の検出が可能で、内視鏡医の支援に足る十分な精度を達成しています。なお、本ソフトウェアは市販後に自律的な学習による性能向上はしませんが、学習画像数の増加やアルゴリズムの改良で性能向上が期待できる場合には、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)にその都度申請し、承認取得後、適宜バージョンアップを行う方針です。

図:EndoBRAIN®-EYEの概要

研究成果の意義

EndoBRAIN®-EYEを使用することで、医師の内視鏡観察を支援し、病変の発見割合が向上することが期待されています。

本研究への支援

本研究開発は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)8K等高精細映像データ利活用研究事業「人工知能とデータ大循環によって実現する、大腸内視鏡診療の革新的転換」(研究開発代表者・工藤進英)の支援を受けて実施されました。

用語解説

注1 ディープラーニング:
近年、特に画像領域で注目されているAIの一種です。多量の学習データを与えることでAI自体がそのデータの特徴を見出し、分類することが可能という点で従来の機械学習の手法と一線を画すものです。具体的には、内視鏡画像を数値化し、それに教師データ(EndoBRAIN®-EYEでは、ある画像にポリープなどの病変が含まれるか否かのどちらに該当するかが教師データ)を付与し学習します。学習したディープラーニングは、未学習の内視鏡画像を入力するとその画像にポリープが含まれているかどうかを判定できるようになります。
注2 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法):
薬機法ともよばれる法律で、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器および再生医療等製品の品質、有効性および安全性を確保し、医療機器の安全対策強化や、医薬品・医療機器・再生医療等製品などの承認・規制を目的とするものです。この法律では診断・治療を目的としたソフトウェアも対象になります。したがって、EndoBRAIN®-EYEのような診療を支援するソフトウェアを市販するためには、医薬品医療機器等法の承認取得が必要になり、性能や安全性について公的機関で審査を受ける必要があります。EndoBRAIN®-EYEは管理医療機器(クラスII)としてPMDAによる審査を受け、厚生労働大臣によって承認されました。
注3 クラスII・管理医療機器:
医療機器は多種多様であるため、患者に与えるリスクに応じて、一般医療機器(クラスⅠ)、管理医療機器(クラスⅡ)、高度管理医療機器(クラスⅢとクラスⅣ)に分類されています。クラスII・管理医療機器は不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもので、レントゲン撮影装置や心電計、注射針、さらにはEndoBRAIN®-EYEのような一部の診断支援プログラムが該当します。
注4 EndoBRAIN®:
2018年12月6日に薬機法に基づく承認を取得した、本邦初の内視鏡AIソフトウェアです。サイバネットシステム株式会社が製造を担当し、オリンパス株式会社から2019年3月に販売開始されています。
注5 感度・特異度:
感度とは画像中に病変があるときにAIが正しく病変があると判定できる確率であり、特異度とは画像中に病変がないときにAIが正しく病変がないと判定する確率であります。つまり感度が高ければ高いほどAIによる見落としが減り、特異度が高ければ高いほど誤検出が減ることになります。

本件に関するお問い合わせ先

研究内容に関する問い合わせ

昭和大学横浜市北部病院消化器センター
E-mail:kudos“AT”med.showa-u.ac.jp
昭和大学横浜市北部病院 消化器センター

名古屋大学大学院情報学研究科 森 健策 研究室
TEL:052-789-5689
E-mail:kensaku“AT”is.nagoya-u.ac.jp
Mori Laboratory, Nagoya University

報道に関する問い合わせ

学校法人昭和大学 総務部総務課 広報担当
TEL:03-3784-8059
E-mail:press“AT”ofc.showa-u.ac.jp

名古屋大学総務部総務課広報室
TEL:052-789-2699
E-mail:nu_research“AT”adm.nagoya-u.ac.jp

AMED事業に関する問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
産学連携部 医療機器研究課
8K等高精細映像データ利活用研究事業担当
TEL:03-6870-2213
E-mail:8Kvision“AT” amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 令和2年1月29日

最終更新日 令和2年1月29日