プレスリリース 新学習指導要領に対応した精神保健教育資材を配信するウェブサービスを開発:こころの健康教室 サニタ
プレスリリース
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
日本医療研究開発機構(AMED)
東邦大学
東海大学
東北大学大学院医学系研究科
高知大学
奈良県立医科大学
明治学院大学
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所地域・司法精神医療研究部(藤井千代・小塩靖崇)、同研究所児童・予防精神医学研究部(住吉太幹)、東邦大学(水野雅文・根本隆洋)、東海大学(森良一)、東北大学(松本和紀※開発当時、現 こころのクリニックOASIS 院長)、高知大学(藤田博一)、奈良県立医科大学(盛本翼)、明治学院大学(西園マーハ文)らの研究グループは、「こころの健康教育 サニタ」を開発しました(図1)。このウェブサービスは、令和4年度から開始される高等学校学習指導要領に、「精神疾患の予防と回復」の項目が追加されることを受け、学校で広く活用可能な教育資材を、精神保健医療の専門家と学校教員で構成されるワーキンググループで開発しました。開発プロセスでは精神疾患を経験した若者や高校生・大学生から意見を聞き、教育教材に反映しました。具体的には、アニメ(精神保健概論・うつ病・統合失調症・不安症・摂食障害)、当事者インタビュー、解説集・模擬授業、学校教職員インタビューが掲載されています。学習指導要領に沿った教育資材をウェブサイト上で配信することで、より多くの人が、精神疾患の予防や早期治療の重要性を認識し、もし罹患した場合でも適切な対処によって回復できることが認識され、差別偏見のない社会づくりが進むことが期待されます。
本研究成果は、日本時間2020年4月11日午前11時にEarly Intervention in Psychiatryに掲載されます。
研究の背景
高等学校学習指導要領の改訂により、令和4年度から全ての高校生が「精神疾患の予防と回復」について学ぶ機会を得ます。この中では、うつ病、統合失調症、不安症、摂食障害については、具体名を挙げて理解できるように指導することが求められています。不調の早期発見と支援の重要性や回復可能性、専門家への相談や早期の治療などを受けやすい社会環境を整えることが重要であることなどを理解できるようにすることも求められています。教科書に精神疾患名ならびにその症状や対処が記載されることは40年ぶりであるため、現役世代の教員には、精神保健の講義経験がある者はほとんどいません。また、全国の学校で広く活用可能な教育資材についても圧倒的に不足している状況にありました。
研究の内容
「こころの健康教室サニタ」の教育資材には、アニメ、当事者インタビュー、解説集、模擬授業、学校職員インタビューが含まれます。これらの教育資材の開発は、精神保健医療の専門家と学校教員で構成されるワーキンググループで行われました。開発プロセスでは、精神疾患を経験した若者や、高校生・大学生にも意見を聞き、教材に反映されました。このプロセスは、昨今国際的な関心が高まっているコ・プロダクション(※1)だと言えます。
教育資材の一つであるアニメでは、うつ病・統合失調症・不安症・摂食障害を扱っています。それぞれ4分のストーリーの中で「早期発見のために知っておくべき症状」を説明しています。各アニメで、主人公の不調への対処行動は異なりますが、いずれも一人で抱え込まず周囲の人に相談できたことや、周囲の人が手を差し伸べてくれたことが回復のきっかけになっています。これらのアニメには、英語、中国語(簡体字 繁体字)、韓国語、ポルトガル語での字幕を選択できるようにしました(図2)。移民であることは、精神不調や精神疾患のリスク因子と言われています。日本語を理解できない子どもたちが日本の学校教育の中で不利を被らないため、また、そのような社会の中でストレスに気がつき、適切に対処できる力を身につけて欲しいという願いから、多言語字幕版の教育資材を作成しました。
当事者インタビューでは、思春期に精神疾患を経験した若者が自身の経験から、思春期の若者やその周囲の大人に知ってほしいことが語られています(図3)。「こころの健康教室 サニタ」にある教育資材は、ウェブサイト上で無料配信しているため、学校の授業だけでなく、自宅でも保護者と共に視聴できる点が大きなメリットと言えます(図4)。
今後の展望
今後、医療と教育の双方の専門家と思春期の子ども・若者、精神疾患を経験した当事者が共同開発した教育資材が、全国の学校に普及することが望まれます。こうした教材を用いて行う精神疾患に関する授業が、思春期の精神疾患の早期介入と予防の実践を促す一助となることが期待されます。「こころの健康教育 サニタ」で提供する教育資材は、インターネットを介して入手できるため、学校の授業だけでなく、自宅で学習内容を保護者と共有することもできます。思春期の若者はもちろんその周囲の大人等、より多くの人が、この「こころの健康教室 サニタ」で学ぶことで、精神疾患の予防や早期治療の重要性について認識し、もし罹患した場合でも適切に対処することで回復できることが認識され、差別偏見のない社会づくりが進むことが望まれます。
論文情報
- 雑誌名:
- Early Intervention in Psychiatry
- 論文タイトル:
- An innovative approach to adolescent mental health in Japan: school-based education about mental health literacy
- 著者:
- Yasutaka Ojio*, Ryoichi Mori, Kazunori Matsumoto, Takahiro Nemoto, Tomiki Sumiyoshi, Hirokazu Fujita, Tsubasa Morimoto, Aya Nishizono-Maher, Chiyo Fuji, Masafumi Mizuno
- DOI:
- 10.1111/eip.12959
- URL:
- https://doi.org/10.1111/eip.12959
用語解説
- ※1 コ・プロダクション(co-production):
- 当事者と専門職とが、対等な立場で、互いの経験や専門性を尊重し合いながら一緒に考え、有用なサービスを開発するプロセス
こころの健康教室 サニタ
ウェブサイトURL:https://sanita-mentale.jp/
本研究への支援
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の障害者対策総合研究開発事業「児童・思春期における心の健康発達・成長支援に関する研究」(研究開発代表者 水野雅文)として実施しました。
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部
小塩 靖崇(おじお やすたか)
TEL:042-346-2168 FAX:042-346-2169
e-mail:ojio"AT"ncnp.go.jp
報道に関するお問い合わせ
国立精神・神経医療研究センター 総務課広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
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関連リンク
掲載日 令和2年4月13日
最終更新日 令和2年4月13日