プレスリリース 有効な治療法のない慢性虚血性心不全患者に対する自家細胞を用いた再生医療の医師主導治験を開始

プレスリリース

国立大学法人筑波大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

筑波大学附属病院は、2021年6月より、慢性虚血性心不全患者に対する、自家細胞を用いた再生医療の医師主導治験(第I相試験)を開始しました。本治験は、標準的な薬物治療の効果が十分でなく、侵襲性の高い左室補助人工心臓や心臓移植の適応となる前の慢性虚血性心不全の患者6名を対象に実施する予定です。

本治験に先立ち、筑波大学附属病院は、患者自身の心筋由来線維芽細胞を培養して得た自家細胞(VCAM-1陽性心臓線維芽細胞、以下VCF1)を、専用のカテーテルを用いて心筋に直接投与するという治療法を、株式会社メトセラおよび日本ライフライン株式会社との共同研究により開発しています。本治験では、この方法により患者にVCF1を投与し、治療法および投与手順の安全性と、低下した心機能に対する有効性を精査します。このVCF1には、心臓内でのリンパ管新生や心筋細胞の増殖を促進し、ダメージを受けた心筋組織の回復を促す力があることが動物試験により明らかになっています。本治療法は、侵襲性も低く、また、副作用の心配がある免疫抑制剤の使用も必要としないことから、これまで十分な治療法が確立されていなかった慢性虚血性心不全に対する有効で安全な治療法になると期待されます。

本治験は、日本医療研究開発機構(AMED)の再生医療実用化研究事業の支援を得て実施します。

研究の背景

心疾患は、がんに次ぐ日本人の死因の第2位に位置付けられ、中でも心不全の死亡者数は最も多くなっています。心不全の治療法は薬物治療が中心となりますが、疾患は進行性で、再入院を繰り返して重症化します。重症化した場合、適応がある場合は心臓移植や補助人工心臓の対象となりますが、これらは手術の侵襲性が高いことから、事実上、高齢者でも安全に適用できる治療方法がありません。そこで、重症化する前に適用できる有効で安全な根治療法の開発が望まれています。高齢化が進む日本において心不全の患者数は増加の一途をたどっており、世界でも2,600万人もの方が心不全と診断されていることから、新規治療法の開発が急務となっています。

心臓移植に代わる再生医療については、これまでもさまざまな研究がなされてきましたが、現在日本で実用化されている骨格筋芽細胞の細胞シートは、心臓に直接貼付しなければならず、開胸手術が難しい患者には使用できません。また、患者本人以外の他家細胞を用いる治療法の開発も進行中ですが、免疫抑制剤の使用が不可欠で、それによる副作用や入院の長期化も危惧されます。

本治験では、慢性虚血性心不全注1)患者に対し、自身の心臓から採取した線維芽細胞を培養して得た自家細胞(VCAM-1陽性心臓線維芽細胞注2)、以下VCF1)を、専用カテーテルを用いて、心筋に直接投与します。VCF1は、心臓内でのリンパ管新生や心筋細胞の増殖を促進し、ダメージを受けた心筋組織の回復を促す力があることが動物実験で明らかになっています。

今回の治験に用いる被験製品(MTC001)を用いた心不全の治療法は、筑波大学附属病院が株式会社メトセラおよび日本ライフライン株式会社との共同研究により開発したもので、専用の細胞投与カテーテルとVCF1からなっています。VCF1は患者由来の細胞を用いるため、免疫抑制剤を必要としません。また、今回開発した専用の細胞投与カテーテルは、心臓内3次元マッピングシステムのナビゲーションに対応しており、患部に細胞を正確に投与することができます。低侵襲性の治療法であるため、開胸手術を伴う治療法と比較して、患者の体力的負担の軽減や入院期間の短縮が期待されます。

このたび治験計画届を医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出し30日調査注3)が完了したことにより、6月より治験を開始しました。

本治験の概要

本治験の対象は、陳旧性心筋梗塞注4)を基礎疾患とし、左室補助人工心臓注5)および心臓移植の適用となる前の心不全ステージC、かつNYHA心機能分類ⅡまたはⅢに該当する、左室駆出率が40%以下の慢性虚血性心不全患者6例です。本治験では、心筋梗塞辺縁部位にVCF1の単回投与を行い、心筋梗塞や心不全悪化など主要な心血管系イベントの発現を評価指標として、本治療法の安全性および有効性を確認します。各患者の治験期間はおよそ1年で、前観察期間、観察期間、評価期間の3期で構成されます。

本治療法は、より早期に細胞治療を行うことで、心不全ステージD(難治性の末期心不全)への進行を回避することが基本的な治療コンセプトであり、医薬品による心機能改善が困難であった患者層に対して、新たな治療機会の提供を可能とするものです。

治験責任医師

筑波大学医学医療系 循環器内科学
佐藤 明准教授

用語解説

注1)慢性虚血性心不全
心不全とは、病名ではなく心臓の機能が低下し、全身に十分に血液を送り出せない状態であり、慢性虚血性心不全は、何らかの理由で冠動脈が狭窄および閉塞して、血液が十分に心筋に行き渡らなくなり、心臓の機能が低下した状態をいう。
注2)VCAM-1陽性心臓線維芽細胞
心臓に存在する線維芽細胞(結合組織を構成する細胞)のうち、VCAM-1(Vascular Cell Adhesion Molecule-1)タンパク質を発現している細胞。心筋細胞の賦活、増殖に寄与し、ラット心不全モデルを用いた動物試験において、心機能を改善することが確認されている。
注3)30日調査
厚生労働大臣が定める届出をした治験依頼者又は自ら治験を実施する者は治験計画の届け出をした日から起算して30日経過した後でなければ、治験を医療機関に依頼してはならないこととされている。当該届出に関する治験の計画に関し、厚生労働大臣は保健衛生上の危害の発生を防止するため、必要な調査の全部又は一部をPMDAに行わせることができることとされている。
注4)陳旧性心筋梗塞
急性期を過ぎた心筋梗塞で、一般的に発症後30日以上経過した心筋梗塞を陳旧性心筋梗塞という。
注5)左室補助人工心臓(Left Ventricular Assist Device, LVAD)
心臓に装着し心機能を補助する医療機器。体外設置型と植込型がある。

研究資金および治験製品の提供

  1. 本治験は、日本医療研究開発機構(AMED)の再生医療実用化研究事業(研究課題名:自家心臓線維芽細胞による心不全患者に対する再生医療のfirst-in-human臨床試験)として実施します。
  2. 本治験は、株式会社メトセラとの医師主導臨床試験契約に基づき、同社から本治験の準備費用及び本治験に係る被験製品(MTC001)の無償提供を受けて実施します。

お問い合わせ先

本治験に関する問い合わせ先

筑波大学 つくば臨床医学研究開発機構 臨床研究推進センター
MTC001医師主導治験 支援事務局
TEL: 029-853-3326
E-mail: mtc001_office"AT"kiban.md.tsukuba.ac.jp

取材・報道に関すること

筑波大学広報室
TEL: 029-853-2040
E-mail: kohositu"AT"un.tsukuba.ac.jp

AMED事業について

日本医療研究開発機構
再生・細胞医療・遺伝子治療事業部 再生医療研究開発課事務局
TEL:03-6870-2220
E-mail: saisei3"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 令和3年7月14日

最終更新日 令和3年7月14日