成果情報 「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン」策定

平成31年3月28日成果情報

国立循環器病研究センター
日本医療研究開発機構

国立循環器病研究センター 臨床検査部 部長 宮田茂樹らの研究班は、「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン」を策定し、日本輸血細胞治療学会誌ならびに日本輸血・細胞治療学会ホームページで公開しました。

研究の背景

外傷による急性期死亡の20-40%は出血が原因との報告もあるように、大量出血症例の予後は良くありません。しかし、この50%以上が凝固障害を来たしたことによるとの報告があるように、適切な治療介入により患者予後改善が認められる可能性があります。また、大量出血症例に輸血される血液製剤の使用割合は多く、早期止血を導く治療法が確立されれば、血液製剤使用量の削減も可能となります。これは、本邦における少子高齢化に伴う血液製剤の需給バランスの悪化の懸念に対しての有効な解決策ともなり得ます。そこで、最新の科学的エビデンスに基づいた大量出血症例に対する輸血ガイドラインの策定は、患者予後改善、血液製剤の適正使用、使用量削減に貢献できる可能性があり、その早期策定が求められていました。

大量出血を伴う患者では、血管破綻部位において形成された組織因子/第VII因子複合体を契機とした消費性凝固障害や、血管内皮障害、虚血再灌流障害、炎症などによる凝固異常、線溶亢進が起こり、止血困難となりやすい傾向があります。また、心臓血管外科手術では、人工心肺使用に伴う希釈性凝固障害、凝固因子活性化、血小板活性化による消費により、止血困難が増長されやすくなります。通常、大量出血症例は、24時間以内に20単位以上の赤血球輸血を要す、もしくはそれと同等のリスクがある患者群として定義されることが多いのですが、産科では突発的に大量出血を発症することがあります。例えば常位胎盤早期剥離、羊水塞栓症などでは、出血量の少ない早期より播種性血管内凝固症候群(DIC)、凝固障害を伴いうることが特徴です。またこれらの疾患では、二次的な弛緩出血を併発して急速にDICが重篤化することも少なくありません。よって、領域ごとに大量出血の病態は異なります。

本邦の現状として、厚生労働省から出されていた“旧”「血液製剤の使用指針」(平成28年6月一部改訂)に基づいた対応では、循環動態改善のため、赤血球輸血や晶質液、膠質液の投与が優先されることとなります。この場合、希釈性凝固障害を引き起こし、凝固障害を悪化させる可能性が高く、加えて、出血性ショックやそれに伴う低体温、アシドーシスも、消費性、希釈性凝固止血障害を増悪させ、悪循環に陥り、患者予後を損ないます。よって、大量出血症例における急性凝固止血障害の実態を的確に把握し、状況に応じた最適な血液製剤の迅速投与が患者予後改善、適切な血液製剤使用につながる可能性があります。

近年のエビデンスは、危機的出血を伴う、もしくはそのリスクが高い重症例では、非常に早い段階から希釈性凝固障害のみによらない凝固止血障害を伴うため、これらの病態を考えた輸血療法として、早期からの十分な凝固止血因子の補充の重要性とその転帰改善効果を示唆しています。最新の知見、臨床試験の結果を考慮し、海外では、主に外傷症例に対して、大量輸血プロトコール(massive transfusion protocol: MTP)を運用し、早期からの先制的な新鮮凍結血漿、血小板製剤の投与が有効であるとの報告が増加しています。また、心臓血管外科領域を中心として、フィブリノゲン製剤(フィブリノゲン濃縮製剤もしくはクリオプレシピテート)、プロトロンビン複合体製剤(PCC)、遺伝子組み換え活性型凝固第VII因子(rFVIIa)など、従来の血液製剤に加えて、様々な血液製剤の有効性も検討されています。また、ベッドサイドモニタリング等で凝固止血異常を迅速に把握し、結果に基づくアルゴリズムで、各血液製剤の投与を決定する方法の有効性を示す報告も増加しています。これら、最新のエビデンスに留意し、本邦においても、各施設が独自に工夫した輸血療法(例えば、院内作製クリオプレシピテートや、フィブリノゲン濃縮製剤のoff-label使用、MTPの運用など)を展開している施設も増加していますが、改訂された最新の「血液製剤の使用指針」においても、大量出血時の対応について詳細な記載は少なく、また、これら最新のエビデンスについての言及も多くはありませんでした。

研究の概要と成果

研究班では、大量出血患者の輸血(止血)治療における重要臨床課題を整理し、「フィブリノゲン製剤」「大量輸血プロトコール(MTP)」「PCCや rFVIIa」「抗線溶療法」に関する4つのClinical Question(CQ)を設定し、関連する5,000を超える文献に対するsystematic reviewを行い、エビデンス総体を抽出し、systematic review reportとしてまとめました。ガイドライン作成グループは、心臓血管外科、外傷、産科、その他の4領域に分けて、各CQに対するエビデンス総体の総括を行い、「Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014」に準じ、推奨文ならびに推奨の強さの暫定的な判定を行い、班会議の審議を経て最終決定しました。推奨に際して、本邦の実臨床に合わせていかに活用するかについても、Practice pointsとして言及しました。策定したガイドライン(案)をもとに、パブリックコメントを収集後、修正を加え、最終版として上梓しました。(日本輸血細胞治療学会誌 2019;65(1):21-92ならびに日本輸血・細胞治療学会webサイト

本ガイドラインが、本邦での、予後の悪い重篤な大量出血症例に対する最適輸血療法の検討に貢献し、問題点の整理、実施体制の再構築につながることを期待しています。

特記事項

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医薬品等規制調和・評価研究事業「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン作成に関する研究」H27-H29 (研究開発代表者:国立循環器病研究センター 臨床検査部 部長 宮田茂樹)の一環で行われました。

お問い合わせ

本研究成果に関するお問い合わせ

国立循環器病研究センター 臨床検査部 部長
宮田茂樹
E-mail:smiyata”AT”ncvc.go.jp

事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
創薬戦略部 医薬品等規制科学課
Tel:03-6870-2235
E-mail:kiseikagaku”AT”amed.go.jp

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最終更新日 平成31年3月28日