トピックス 2023年度 HFSP中曽根賞受賞者が発表されました

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国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム機構(HFSPO)は、2023年度のHFSP中曽根賞がロテム・ソレク教授に授与されると発表しました。

ロテム・ソレク教授はイスラエルのレホヴォトにあるワイツマン科学研究所の分子遺伝学部門の研究者です。原核生物の免疫系の多様性と働きに関する彼の画期的な発見は、ウイルス防御の理解に革命をもたらし、ヒトの免疫系に見られる関連した特徴がどのように進化したかを解明しました。

ロテム・ソレク教授は、細菌がどのようにしてウイルス感染と戦うのかを解明しましたが、そのなかでヒトの自然免疫系の重要な構成要素は、細菌に感染し、複製することにより細菌を殺そうとするウイルスの一種であるファージに対する細菌の防御機構に由来することを明らかにしました。

ロテム・ソレク教授の研究がなされるまで、我々の免疫系は多細胞生物の進化的革新の結果、構築されたと考えていたため、この発見は全く予想外でした。この点に関して彼は、細菌が数十億年前に同様の免疫機構を既に持っていたこと、そして、我々自身の免疫系が細菌の免疫機構から進化したことを示しました。また、この古代の自然免疫の原型が植物、動物、細菌の間で共有されており、これらの生物が持つようになった新しい免疫機構の解明に役立つことを示しました。原核生物の免疫系に関する彼の発見は、生物医学に有益な分子ツールを育むことになるでしょう。

ロテム・ソレク教授は、数万の微生物の中から新しい免疫システムを体系的に特定する計算手法を発明したことが特に評価されました。この方法を用いて、彼は50以上の全く新しい、ゲノム上に広範囲に分布する多遺伝子免疫系を発見し、それがファージに対する防御を行う免疫系であることを実験的に明らかにしました。彼の研究は世界中の多くの研究室を巻き込み、微生物学に複数の新しい分野を切り開きました。

ロテム・ソレク教授の研究は、ヒトの自然免疫系が細菌由来のものから進化したことを示すだけでなく、細菌や真核生物が細胞内シグナル伝達に使用する新しい種類の低分子(Cohen Nature 2019; Tal Cell 2021; Ofir Cell 2021)や、逆転写非コードRNAがファージに対する防御に関与していることを示しています(Millman, Cell 2020)。彼の研究はまた、いくつかの細菌の免疫系がウイルスの複製を阻害する様々な低分子を生産できることを示しており (Bernheim Nature 2021) 、それゆえ、臨床使用する抗ウイルス薬として開発することも、集菌して薬を生産することもできます。

国際HFSP機構(HFSPO)の長田重一理事長は、 「人類が最もこの知識を必要としている時代に、免疫に対する理解を変えるような革命的発見をしたロテム・ソレク教授に2023年の中曽根賞が贈られることを大変喜ばしく思います。」 、「微生物学とウイルス学の新たなフロンティアを開拓した研究を表彰することは名誉なことです。」と述べました 。

国際HFSP機構事務局長のPavel Kabat氏は、 「この発見は、ウイルスのパンデミックによって壊滅的な課題に直面する人々にとっても、そして、まさに地球上の生命全体の理解にとっても極めて重要です。」 と述べています。

ロテム・ソレク教授の評価や引用の詳細については、HFSPウェブサイトに掲載されている2023年のHFSP中曽根賞の解説を参照して下さい。
HFSP 2023年中曽根賞 解説ページ
 

HFSP 及びHFSP中曽根賞について

国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム機構(HFSPO)は、生命科学のフロンティアにおける国際的・学際的な共同研究と若手研究者が学際的研究能力を身につけるトレーニングを推進するために1989年に設立されました。その目的は、生命科学に焦点を当てた最先端の学際的研究を振興するために、大陸間に跨がる研究者の共同研究や若手研究者が自身の専門と異なる分野の研究機関に長期間滞在してトレーニングを受けることを推し進めることです。HFSPOは、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、インド、イスラエル、イタリア、日本、大韓民国、ニュージーランド、シンガポール、スイス、英国、米国の政府や研究支援機関、ならびに欧州委員会からの財政支援を受けて運営されています。このプログラムでは、これまでに世界中の7,500人以上の科学者からなる4,500以上の共同研究助成とポスドクのフェローシップを授与しています。

HFSP中曽根賞は、生命科学の最先端の分野で重要なブレークスルーをもたらした科学者を顕彰するために2010年に創設されました。プログラム開始以来、28名のHFSP研究グラント受賞者と4名のHFSP中曽根賞受賞者がノーベル賞を受賞しています。ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムの創設を提唱した日本の中曽根康弘元首相の先見の明を私たちに思い起こさせます。
これまで、Karl Deisseroth (2010) 、Michael Elowitz (2011) 、Gina Turrigiano (2012) 、Stephen Quake (2013) 、Uri Alon (2014) 、James Collins (2015) 、Jennifer Doudna and Emmanuelle Charpentier (2016) 、David Julius (2017) 、SvantePääbo (2018) 、Michael Hall (2019) 、Angelika Amon (2020) 、Anthony Hyman and Clifford Brangwynne (2021) 、Aviv Regev、Franz-Ulrich Hartl and Arthur L.Horwich (2022) の各氏が受賞されています。
 
(注)本記事はHFSPOの記事をもとに構成したものです。
HFSP 2023年中曽根賞 解説ページ

 

本件に関するお問い合わせ先

日本医療研究開発機構(AMED)
国際戦略推進部 国際企画課
Tel:03-6870-2216
E-mail:amed-hfsp"AT"amed.go.jp ※E-mailは上記アドレス"AT"の部分を@に変えてください。

最終更新日 令和4年10月27日