2016年度 研究事業成果集 滲出型加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞を用いた臨床研究

滲出型加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞を用いた臨床研究がスタート

戦略推進部 再生医療研究課

世界初となる他人のiPS細胞由来の網膜細胞移植に挑戦

理化学研究所の髙橋政代プロジェクトリーダーらは、目の難病、滲出型加齢黄斑変性の患者に対し、他家(他人の)iPS細胞から作製した網膜色素上皮(RPE)細胞*を移植する臨床研究を開始しました。平成29年3月に世界で初めて実施され、今後2年間で5例程度の実施を目指しています。

取り組み

加齢黄斑変性は、網膜の中心にあり視力にとって最も重要な部分である黄斑部が障害される病気です。加齢に伴って起こり、日本では数十万人の患者がいるといわれています。薬による治療法もありますが、全部の患者を完全に治すことはできません。

AMEDの再生医療実現拠点ネットワークプログラムの一環として理化学研究所多細胞システム形成研究センター(CDB)の髙橋政代プロジェクトリーダー(網膜再生医療研究開発プロジェクト)は、iPS細胞を使った網膜の再生医療の研究に力を注いでいます。

成果

平成26年に世界初となる患者自身のiPS細胞から作製した網膜色素上皮(RPE)細胞シートの移植手術を実施しました。結果は良好で、移植されたシートは当初の位置にとどまり身体の一部として機能している他、腫瘍形成などの特別の異常は見られません。


iPS細胞から網膜色素上皮細胞を作製
*網膜色素上皮細胞:
網膜の下にある細胞の層。正常な視力を得るには、この網膜上皮細胞やその下にある脈絡膜が正しく働く必要がある

次のステップとして理化学研究所CDB、神戸市立医療センター中央市民病院、大阪大学大学院医学系研究科、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の4機関が共同で、他人のiPS細胞を使った臨床研究を開始しました。

他家移植は4機関共同で実施

再生医療用iPS細胞のストックを進めてきたCiRAが他人由来のiPS細胞を提供し、理化学研究所CDBは移植用の網膜色素上皮細胞を製造します。実際に患者への移植を行うのは神戸市立医療センターと大阪大学です。平成29年3月には神戸市立医療センターで世界で初めて手術が実施され、今後2年間で5人程度に移植を行う予定です。

展望

CiRAでは自分と他人を認識する働き(HLA)が同じ型の組み合わせを持ち免疫拒絶反応が起こりにくいiPS細胞を、健康な日本人の協力者の血液からあらかじめ作製し、備蓄する計画「再生医療等iPS細胞ストックプロジェクト」を進めています。他人由来のiPS細胞から製造した細胞や組織の移植(他家移植)は、患者自身のiPS細胞を使う自家移植より大幅な費用の削減と時間の短縮が見込めます。そのため今回の研究は、再生医療の普及に向けた大きな一歩として期待が高まっています。

最終更新日 平成30年1月15日