2016年度 研究事業成果集 重症心不全治療用の筋芽細胞シートの実用化とiPS細胞由来心筋シートの開発

重症心不全治療用の筋芽細胞シートの実用化とiPS細胞由来心筋シートの開発

戦略推進部 再生医療研究課

iPS細胞由来の心筋シート、平成29年度内にFirst in Human試験を予定

大阪大学の澤芳樹教授は、薬剤や冠動脈パイパス手術などでは治療効果が不十分な虚血性心疾患による重症心不全患者の新たな治療法となる、世界初の心不全治療用再生医療製品「ハートシート®」を開発・実用化しました。現在は、より効果が期待されるiPS細胞由来の心筋シートの研究開発を進めており、平成29年度内にFirst in Human試験(新しい医療技術がヒトで初めて試される試験)を予定しています。

伊勢志摩サミットでの心筋シート展示ブース

取り組み及び成果

骨格筋由来の筋芽細胞シート「ハートシート®」を平成28年に実用化

日本には100万人規模の心不全患者がいると推計されていますが、重症化すると心臓移植や人工心臓以外に治療法がありません。大阪大学大学院医学系研究科の澤芳樹教授は、東京女子医科大学と共同研究を行い、患者本人の足の筋肉を使用した筋芽細胞シートを開発しました。平成27年9月、世界初の心不全治療用再生医療製品「ハートシート®」として製造販売承認(条件期限付き)され、平成28年にテルモ株式会社より発売されました。

iPS細胞由来の心筋シートを開発中、平成29年度内にFirst in Human試験を予定

現在は、次なるステップとして、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と共同で、iPS細胞から心筋細胞を作り、心筋シートとして心臓表面に移植するための研究開発を進めています。CiRA提供のiPS細胞から「心筋シート」を作製するため、患者本人の細胞を用いる筋芽細胞シートと比べて、均一な製品を大量生産できるメリットがあります。また、心筋細胞そのものを用いるため、心筋細胞とは性質の異なる筋芽細胞よりさらに心機能を改善する効果が期待されます。

筋芽細胞シートの経験を生かしたiPS細胞由来心筋細胞シートの開発

研究では、マウスiPS細胞由来の心筋シートをラットに移植したところ、分子レベルで収縮弛緩運動が行われており、ラットの心筋と電気的に同期していることが分かりました。また、ヒトiPS細胞由来の心筋シートを心筋梗塞のブタへ移植すると、移植した未熟な心筋細胞がブタ体内で成熟型となり、心機能の改善が観察されました。これらの動物実験により、ヒトiPS細胞由来の心筋シートは重症心不全患者に対する有効な治療法となる可能性が示されました。実用化を目指し、平成29年度内にFirst in Human試験を予定しています。

展望

現行制度では、65歳以上の重症心不全患者には心臓移植を行うことができません。また日本では深刻なドナー不足の問題があり、十分な心臓移植を行えない現状があります。心筋シートによる治療は、重症な心臓病に対する画期的な新治療法となることを目指しています。

最終更新日 平成30年1月15日