2016年度 研究事業成果集 脳卒中の後遺症による身体麻痺に対するニューロリハビリテーション

ニューロリハビリテーション

戦略推進部 脳と心の研究課/産学連携部 医療機器研究課

BMIリハビリテーションシステムで医師主導治験を実施

慶應義塾大学の里宇明元教授らは、脳機能と機械を融合させるBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)技術の実用化に向けた研究に取り組んでいます。開発中のBMIリハビリテーションシステムは、脳卒中によって麻痺が残った患者に対して、脳と機械をつなぐことで麻痺そのものの回復を促すという画期的なものです。4施設による多施設医師主導治験を行い、2019年度の薬機法承認を目指しています。

慶應義塾大学の里宇研究室で行われているBMIによる検証

取り組み

脳卒中の後遺症による身体麻痺を元に戻す方法は現在のところ極めて限られています。脳卒中の場合、運動機能そのものが失われているのではなく、脳の損傷で「動かせ」という脳からの指令が正しく伝わらないために動かないのです。

慶應義塾大学の里宇明元教授を中心とする医工連携チームは、脳機能の一部と機械を融合させることによって、身体機能の回復・代替・補完につながるBM(I ブレイン・マシン・インターフェース)技術の研究開発を進めています。「脳科学研究戦略推進プログラム・脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」の一環として行われており、現在その成果をもとに訓練機器を開発中です。

チームは、脳卒中による後遺症で手指の曲げ伸ばしが困難な重度の麻痺患者に、脳波を読み取るヘッドセット、手指の筋肉への電気刺激装置、手指を伸ばすための電動装具(ロボット)を装着して検証を行いました。その結果、患者が頭の中で手指を動かそうとイメージすることによって脳波に変化が起き、脳の運動を司る部分の血流が改善し、手指を伸ばす筋肉の収縮が認められるようになることが分かりました。

そこで同装置を用いて訓練を続けたところ、手指を動かせなくなっていた重度の麻痺患者が、手指を使って物をつまみ上げ、移動させるまでに改善しました。臨床試験では、、運動イメージ訓練を1日1回40分間、10日間実施し、約7割の患者でマヒの改善が現れたことが報告されています。訓練を繰り返すことで、損傷された神経回路の代わりとなる新しい神経回路が脳に形成され、麻痺した手が動くようになったのです。BMIは各国で研究が進んでいますが、運動機能の回復が実証されたのは世界で初めてです。

BMIリハビリテーションシステム

成果

この機器は、平成28(2016)年度に多施設医師主導治験を開始し、治験終了後、慶應義塾大学との連携によってパナソニック株式会社が製品化する予定です。さらに2019年度に向け薬機法承認を目指します。

展望

BMIシステムを核として、開発中の複数の革新的リハビリ医療機器を統合化することによって、未来のリハビリ医療の姿を実現し、リハビリの最適化・効率化・高度化を目指します。これにより、医療機器産業における新たなビジネスモデルの創出が期待されます。

最終更新日 平成30年1月15日