広報 インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―産学連携のしくみを強化して新しい薬を生み出す―

(日経サイエンス2017年6月号 別冊特集より転載)

オールジャパンでの医薬品創出プロジェクト
産学連携のしくみを強化して新しい薬を生み出す

写真(竹中登一プログラムディレクター)

プログラムディレクター 竹中 登一
公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団会長

Qプロジェクトのおもな取り組みを教えてください。

AMEDが設立されてから立ち上げた「産学官共同創薬研究プロジェクト(GAPFREE)」は、アカデミアと産業界の連携を促すプロジェクトで、臨床情報が付随した臨床検体をアカデミアから提供してもらい、企業と共同で創薬標的の探索やバイオマーカーの発見などに向けた研究を行います。アカデミアと企業が組んで応募するしくみですが、連携相手がいない場合にはAMEDがそれぞれの特性を生かしてマッチングを行っており、ニーズをとらえた事業になっていると自負しています。

化合物のスクリーニングを行う「産学協働スクリーニングコンソーシアム(DISC)」の構築にも、製薬企業の多大な協力を得ました。企業がもつライブラリーには「薬らしい」顔をした化合物が多いため、これまでもアカデミアから使いたいという要望がありましたが、知的財産権の問題があり、実現しませんでした。AMEDが間に入り、化学式は伏せたまま提供するといった工夫をすることで、22社が総計約20万個の化合物を提供してくれました。ここでヒット化合物が見つかれば、共同研究に発展する可能性も高いと思います。

また2013年、アカデミア創薬を支援し、基礎研究と臨床研究の間にある「死の谷」を越えるために構築した「創薬支援ネットワーク」は、AMEDを中心に理化学研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所、産業技術総合研究所が連携して、化合物の探索・最適化などの支援を行っており、目標を上回るペースで研究者に利用されています。

Q なぜオールジャパンでの取り組みが必要なのでしょうか。

セレンディピティで見つかりそうな薬は1990年代までに見つけつくされ、ゲノム創薬へのパラダイムシフトが起こりました。疾患生物学の知識とエビデンスに基づいた新しい研究開発手法が求められるようになり、製薬企業がアカデミアやベンチャー企業と連携する動きが世界的に加速しましたが、日本は遅れていると言わざるを得ない状況です。

私は企業の研究者、経営者としてそれなりの成果をあげてきたつもりですが、その背景には、アカデミアと連携することで多様なアプローチをとれたことがあると思っています。また、これまで、安全性や薬効はまず動物を用いて確認していましたが、最近は、薬の開発の早い段階から「人」での研究を行うことが重要になっています。これは企業単独では行えません。検体や臨床情報を得るには、アカデミアの協力が不可欠なのです。

Q 今後は、どのような方向をめざすのでしょうか。

ブロックバスター(大ヒット薬)が生まれれば、それはもちろんうれしいですが、まだ治療法のない疾患に対する新薬開発を優先していくべきだと考えています。難病や希少疾患の薬は経済効果が小さく、製薬企業も単独では取り組みづらいので、難病克服プロジェクトとも連携して支援していきます。

企業と医学・薬学分野の研究者との距離はだいぶ縮まりましたが、今後は理学など基礎研究の研究者にも産学共同チームに入ってもらい、多様性をもたせたいと考えています。アカデミアと企業の"橋渡し"は早く卒業して、日本から独創的で新しい薬が生み出される土壌をつくっていかなくてはと思っています。

最終更新日 平成29年7月11日