広報 インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―開発課題の設定を通じて業界の意識改革を図る―

(日経サイエンス2017年6月号 別冊特集より転載)

オールジャパンでの医療機器開発プロジェクト
開発課題の設定を通じて業界の意識改革を図る

写真(菊地 眞プログラムディレクター)

プログラムディレクター 菊地 眞
公益財団法人医療機器センター理事長

Q このプロジェクトが始まって2年経ちますが、どんな変化がありましたか。

文部科学省、厚生労働省、経済産業省の事業が一体化されたことで、重複がなくなり、情報の流通もよくなりました。基礎研究、治験前の研究、ものづくりという3つの段階を支援する事業が横並びとなったため、AMEDが研究者や企業を次の段階へと誘導することも可能になりました。さらに、理事長の尽力もあって、「国の研究費だから先端研究を支援すべき」といった枠組みにとらわれずに支援できるようにもなりました。こうした変化の結果、当初の目標を大きく上回る成果をあげています。

Q 日本の医療機器開発にはどのような課題があるのでしょうか。

1980年代、日本の画像診断装置は世界を席巻していましたが、90年代に治療機器の開発がさかんになってからは、欧米に後れをとっていると思います。日本の医療機器メーカーは、中小企業が中心で、大企業も欧米に比べれば規模が小さいため、リスクの高い機器の開発には取り組みにくいのです。かといって、多品種少量生産の業種のため、合併や共同開発も進みません。メーカーの技術者が医学や生物学の知識をあまりもっていない、医学部の研究者が実現可能性を評価できないままメーカーに製作の指示を出すなど、人材教育にも問題があります。

Q そのような状況を変えるために、いろいろな取り組みを行っているのですね。

大きく2つのアプローチをとっています。1つは、最先端で大規模な技術の開発を目標に掲げ、多くの企業に参加してもらうことで、企業の独立性を保ちつつ連携を図ろうというものです。具体的には、医療機器と情報機器をIoTでつないだ「スマート治療室」を開発しており、大手の産業ロボットメーカーや家電メーカーを含む18社が参加しています。治療機器の市場が欧米に押さえられている中で、このチームジャパンのシステムは、海外進出の目玉にもなると期待しています。

もう1つは、医工連携の支援です。医学部の研究者、ものづくりに長けた中小企業、製販企業などがチームを組んで医療機器を開発する課題を支援します。開発を通じて、協力が得意ではない中小企業にもほかの企業との連携を促すのがねらいです。また、「売れ筋」を肌で知っている製販企業が課題の代表者になれば、研究者の視点も変わってくると思います。

Q 今後、どのような展開を考えていますか。

まずは、現在の事業を着実に進めることに注力します。医療機器は薬と異なり、医師が操作スキルを習得する必要があるため、普及に時間がかかり、開発費の回収が遅くなりがちです。今後は、この問題にAMEDとしても取り組む必要が出てくると思います。また、近い将来、在宅医療機器や介護機器へのニーズが高まることは目に見えているので、そのときに開発すべきシーズを、現場の声も聞きながら探索しておかなければと思っています。

最終更新日 平成29年7月11日