広報 インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―優れた基礎研究の成果を「死なせない」ために―

(日経サイエンス2017年6月号 別冊特集より転載)

革新的医療技術創出拠点プロジェクト
優れた基礎研究の成果を「死なせない」ために

写真(猿田享男プログラムディレクター)

プログラムディレクター 猿田享男
公益財団法人医療研修推進財団顧問慶應義塾大学名誉教授

Q このプロジェクトではどんな研究支援をしているのですか。

日本の大学では、革新的ともいえる優れた基礎研究が数多く行われています。このプロジェクトは、どの医療分野であるかにかかわらず、革新的基礎研究の成果(シーズ)をできるだけ早く実用化して、 患者さんのもとに届けることをめざしています。実用化するには、シーズを臨床研究や治験につなげる「橋渡し研究」が必要ですが、個々の大学がそれを行うのは設備や人員の面で困難です。そのため、全国で17の大学附属病院や医療センターなどを拠点に選び、そこで拠点内外のシーズの橋渡し研究を支援しています。

Qシーズの実用化のために、日本ではこれまでにどんな取り組みが行われてきたのでしょうか。

大学の研究成果を積極的に医療につなげようとする動きは、30年以上も前に始まりました。当時、大学の基礎研究はほとんど実用化につながらず、言わば「死んで」いました。 研究成果は論文として有名な科学雑誌に掲載されることが最終目標になっていたのです。

この状況をなんとかしようと、1984年に、当時の厚生省の下で「高度先進医療」という制度が始まりました。 高度先進医療として認められた技術による診療は、保険導入のための評価という位置づけで行われるため保険外診療ですが、基礎研究の成果をいち早く患者さんに届けることが可能になったのです。現在は、「先進医療」という制度に変わっていますが、この枠組みにより、多くの革新的医薬品や機器を用いた技術が最先端医療として実用化されてきました。

一方、21世紀に入ると、橋渡し研究という考え方が米国で起こり、文部科学省がこれに倣って橋渡し研究事業を開始しました。この事業と、厚生労働省が推進してきた「早期・探索的臨床試験拠点整備事業」や「臨床研究中核病院関連事業」を一体化させたのがこのプロジェクトです。橋渡し研究を支援し、先進医療として認められる段階や、企業に渡せる段階にまでシーズを育てることが私たちの役割です。

Q そのために、拠点はどのように構築し、運営していますか。

拠点には、橋渡し事業の経験のある大学病院や医療センターが選ばれています。さらに、薬事や生物統計、プロジェクトマネジメント、知的財産などの専門知識をもった人材を揃え、バイオマーカー評価設備や細胞調製施設を整備しており、支援体制は万全です。シーズの発掘、拠点間のネットワーク形成、人材の育成にも取り組んでいます。

いい体制ができ、いい研究が進んでいると思っていますが、やはり、これまで別の枠組みの中で行われてきた事業を統一するのは簡単ではありません。すべての拠点の足並みが揃い、同じ目標に向かうことが重要だと思っています。そして、このプロジェクトが真に日本の医療と経済の発展に寄与していくには、製薬企業との連携や、海外への展開などが不可欠ですので、そのためのしくみづくりを急いでいます。

最終更新日 平成29年7月18日