広報 インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―質の高いデータと試料で 研究から医療への流れを加速―

(日経サイエンス2017年6月号 別冊特集より転載)

疾病克服に向けたゲノム医療実現プロジェクト
質の高いデータと試料で研究から医療への流れを加速

写真(春日雅人プログラムディレクター)

プログラムディレクター 春日雅人
国立研究開発法人国立国際医療研究センター前理事長

Q このプロジェクトが始まってからの2年で、どんな変化がありましたか。

2015年7月に国のゲノム医療推進協議会がゲノム医療の現状と課題、求められる取り組みについての中間とりまとめを提出したことを受けて、さまざまな取り組みを行ってきました。まず、前身の文部科学省のプロジェクトでは、拠点ごとにデータを収集していましたが、各拠点を核としてさまざまな立場の研究者から課題を募集し、オールジャパンの研究体制ができました。また、疾患ごとにデータを収集する「臨床ゲノム情報統合データベース整備事業」と、データをもとに新しい治療法の研究開発を行う「ゲノム医療実用化推進研究事業」も始まり、ゲノム研究をゲノム医療へと転換させるための準備が整ったと思います。すでに、東北メディカル・メガバンク計画では、 2049人の健常な日本人の全ゲノムデータをデータベース化して公開し、全国の研究者に利用されています。

Q 臨床ゲノム情報統合データベース整備事業について教えてください。

この事業は、がんなどの疾患領域ごとに、検体の収集、ゲノム解析、臨床情報を含めた情報の統合・解析を行って結果をデータベース化し、公開しようというものです。 ゲノム医療を実現するためには、疾患にかかわるゲノムの要因を特定しなければなりません。ゲノム解析技術の進歩によって、ゲノム情報は得やすくなりましたが、情報の解釈はかなり難しく、単一遺伝子疾患でさえ、遺伝子のどの塩基の変異が病気を起こしているのかをなかなか突き止められないのが現状です。この困難を打ち破るには、データ・シェアリングを行って、より多くの情報をもとに、みんなでいっしょに考えることが必要です。このデータベースは、そのために欠かせないものです。そこで、難病や遺伝性疾患から整備を始め、がん、感染症、認知症などに対象を広げています。

Q ゲノム医療の研究を支援するために、どのような取り組みをしていますか。

3つの重要な課題に取り組んでいます。1つめは、バイオバンクの品質向上と利用推進です。患者さんから提供していただいた生体試料を研究に活用していただくため、臨床情報とともに保存し、提供するための体制づくりを行っています。2つめは、ゲノム情報基盤の整備です。データ・シェアリングを活発に行うためには、専用のサーバーにデータベースを置いて管理・更新することが求められます。そのために、東北大学のスーパーコンピューターを共用できるようにしました。3つめは、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)への対応です。研究者が個人のゲノム情報をどのように取り扱い、患者さんにどう生かすのかについて、統一した方針をつくるための検討を進めています。

Q 今後、実現したいことは何ですか。

ゲノム医療の実現のためには、ゲノムだけでなく、エピゲノムと疾患の関係にも研究を広げなければなりません。エピゲノムは環境要因で変化するので、とても難しい研究になりますが、将来は、これにもオールジャパン体制で取り組んでいけたらと思います。

最終更新日 平成29年8月1日