広報 インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―基礎研究を確実に最新医療につなげてすべての人に最適ながん治療を―

(日経サイエンス2017年6月号 別冊特集より転載)

ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジェクト
基礎研究を確実に最新医療につなげてすべての人に最適ながん治療を

写真(堀田知光プログラムディレクター)

プログラムディレクター 堀田知光
国立研究開発法人国立がん研究センター名誉総長
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター名誉院長

Q プロジェクトの生い立ちとAMED になってからの変化を教えてください。

このプロジェクトは、文部科学省、厚生労働省、経済産業省がそれぞれ進めてきた日本のがん研究*を引き継ぎました。AMEDになってからの大きな変化は、基礎研究の成果を実用化に向けて一貫して支援する体制が整ったことです。研究者には、患者さんの声を受け止めてがんの研究に取り組み、治療開発を進めてほしいと考えています。AMED設立以降は、確実に目的を達成できるように、革新的ながん治療薬の創出や、診療ガイドライン改訂につながるような新しい標準治療の確立など、2020年までの目標を具体的に設定し、それに対して進捗管理と評価を行いながら進めています。

*文部科学省「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム」、厚生労働省「革新的がん医療実用化研究事業」、経済産業省「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業」

Q 日本人の2人に1人ががんになる時代に、プロジェクトで力を入れていることは何でしょうか?

がん医療には、ならないための「予防」、早期発見・早期治療を可能にする「診断」、そして「治療」という一連の流れがあります。この中で、疾患の病態・病期を表す指標であるバイオマーカーの探索に力を入れていますが、これは診断の信頼性を高め、治療の効果を高めることにつながります。しかし、今知られているものだけでは、すべての患者さんに適切な医療を提供するのに十分ではなく、まだまだやるべきことはたくさんあると考えています。

Q 一人ひとりに最適な治療を提供することをめざしているのですね。

ゲノム解析ができるようになり、個別化医療、すなわち、個人の特性を調べて最も適切な治療を展開することが可能になりつつあります。 肺がんを例にとると、以前は病理診断に基づいて4つに分類され、これに準じて治療が行われていました。今は、原因遺伝子によってより細かく分類されて治療が行われるようになり、治療成績は格段に上がっています。その理由は、肺がん全体から見たら1割程度にしか効かない治療法でも、ある遺伝子の変異をもつ患者さんのグループでは8割に効くことがあるからです。これほど治療効果に差が出るのですから、がんの性質を見きわめてから治療を行うことの重要性はおわかりいただけるでしょう。

Q がんも治るようになるのでしょうか。

5大がんと呼ばれてきた、肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がんは、今でも患者数が多く重視しなければなりませんが、医療の進歩により、早期に発見して治療をすれば治るケースが増えています。その一方で、進行がんや難治性がん、希少がん、小児がん、また再発がんに対しては適切な治療法が確立されているとはいえません。 患者数が少ないがん種であっても、治療を必要としている人がいる限り、それに応えていくのが使命だと考えています。また、免疫チェックポイント阻害剤は、新しいコンセプトの治療薬として、これからの発展を楽しみにしています。

20年ほど前に、分子標的薬が登場してから、抗体医薬が用いられるようになり、最近では免疫チェックポイント阻害剤と、がん治療法の進化を目の当たりにできる時代が続いています。この進歩を途切れさせないために、実用化をめざした研究を行いながらも本態解明を含む基礎研究にも力を入れていきます。

最終更新日 平成29年8月8日