広報 インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―「基礎から応用へ」を軸足に 幅広い施策で社会のニーズに応える―

(日経サイエンス2017年6月号 別冊特集より転載)

脳とこころの健康大国実現プロジェクト
「基礎から応用へ」を軸足に 幅広い施策で社会のニーズに応える

写真(岡部繁男プログラムディレクター)

プログラムディレクター 岡部繁男
東京大学大学院医学系研究科教授

Q このプロジェクトを率いていかれる上で工夫されていることはありますか。

これまで文部科学省が実施してきた「脳科学研究戦略推進プログラム」では、脳の基礎研究を出発点とし、その成果を応用して脳神経系疾患の克服につなげようとしてきました。一方、厚生労働省では、脳神経系疾患で社会的に困っている人たちのために制度の整備に取り組んできました。つまり、入口側と出口側から行われてきた両省の事業が、AMEDでいっしょになったわけです。したがって、両者がうまく連携するように調整することが私の大きな役目だと思っています。

Q 今、いちばん力を入れているのはどのようなことですか。

国際協力です。脳の研究には、脳の画像データをはじめ多くのデータが必要ですが、国内で集めるには限界があります。そこで、米国の主導で昨秋から具体化しつつある「International Brain Station(IBS:国際ブレインステーション)」というプロジェクトの立ち上げに、積極的に参加しています。 IBSには、主要先進国が参加しており、疾患の理解、治療法開発に向けて、各国が集めたデータを国際的に共同利用する計画を進めています。

日本はこれまでに、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」において成果をあげ、世界的に注目されています。これは、マーモセットの脳機能を研究して脳神経系疾患の診断・治療に役立てようというもので、理化学研究所を中核機関としてデータを集めたという点でも、モデルケースとなっています。こうした蓄積を生かして、IBSでも貢献していきたいと思っています。

Q このプロジェクトを進める上で難しいのはどのような点ですか。

ほかの疾患と異なり、脳神経系疾患の多くは、その原因が十分に明らかにされていない点です。しかし、逆に言えば、原因が解明できれば、治療法や予防法を開発できる可能性があるということです。そこで、さまざまな視点の研究課題を、連携をとりながら実施することで、原因を探ろうとしています。また、前述の通り、脳に関するデータを集めるのは容易なことではありません。そこで、臨床データを集める中核拠点を設け、AMEDに参加する研究者ならば誰もが使えるようにする計画を考えています。

Q 今後、どのような方向をめざしていきますか。

認知症や精神疾患については、根本治療法の開発を進める一方で、患者さんのQOL(生活の質)を向上させることも大事です。これは、基礎研究とはまったく異なる課題であり、生活実態の調査なども行って、より効果的な対策を社会実装していかなければなりません。また、脳の状態には年代ごとの特徴があるので、長期にわたって脳の変化を追いかけるコホート研究を進めます。

また、脳神経系疾患の発症頻度は先進国でも途上国でも変わらないのですが、途上国では診断されずに放置されていることが多いのが現状です。そこで、疾患の簡便な診断法を提供することなどを通じて、世界に貢献することをめざします。

最終更新日 平成29年8月15日