広報 インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―地道な研究で流行に備え、グローバルな視野での対応を―

(日経サイエンス2017年6月号 別冊特集より転載)

新興・再興感染症制御プロジェクト
地道な研究で流行に備え、グローバルな視野での対応を

写真(宮村達男プログラムディレクター)

プログラムディレクター 宮村達男
国立感染症研究所名誉所員

Q 新興・再興感染症制御プロジェクトがAMEDで実施されることの最大の利点はどんなところにありますか。

病原体が刻々と変化する一方、ヒトの社会も急速に変貌しています。熱帯林に潜んでいた病原体が航空機で先進国に運ばれることもあります。両方が変化する中で発生、拡大する感染症を制御するには、グローバルなレベルでのデータベースの継続的な蓄積とその活用が欠かせません。突発的な事態にその時々最善の対策を講じなければならないのが感染症対策の宿命です。これまで文部科学省のもとに実施されてきたJ-GRID(感染症研究国際展開戦略プログラム)と厚生労働省のもとで行われてきた新興・再興感染症研究事業を、AMEDで一元的に管理して進めることは、データベースの蓄積と活用という点で大きな利点です。

Q直近の感染症流行の例にジカ熱があります。これにAMEDはどのように対応しましたか。

ジカ熱は2007年以降、南太平洋諸島で感染拡大し、2015年春からブラジルなど中南米で大きな流行が起きました。妊婦の感染と胎児の小頭症の関連も大きな問題となりました。厚労省科研費フラビウイルス研究班の中でジカウイルス感染の診断研究も以前から取り上げていましたが、 AMEDでは2016年2月にジカ熱に関するデータや研究成果を世界の保健医療機関や研究者の間で共有する声明にいち早く署名しました。5月には対策の強化のために調整費*を配分し、計画を前倒しして取り組みを始めました。さらに、AMEDが支援する研究班の主催で7月にワークショップを開き、日本とブラジルの研究者が迅速診断法やワクチン開発などについて幅広く議論し、共同研究を始めました。AMEDの機動力が活用されて、突発的な流行にすぐに対処しているといえます。ジカ熱を含めた昆虫媒介性ウイルス感染症研究は、流行がない限りとても地味な研究領域で予算も多くないのが実情ですが、感染症については、いつどこで役立つかわからない研究を地道に継続して備える必要があることを痛感しました。

*調整費:内閣府の科学技術イノベーション創造推進費500億円のうち、35%に当たる175億円が、医療分野の研究開発関連の調整費としてAMEDに充当されるものです。健康・医療戦略推進本部が決定した「医療分野の研究開発関連の調整費に関する配分方針」に基づき原則年2回配分を行います。

Q 感染症研究を支援するにあたって特に留意されているのはどんな点ですか。

感染症研究は必ずしも計画どおりには進まないものです。機械的なマニュアルだけでは、進捗状況を適正に評価することはできません。 感染症対策には病原体の研究、病原体と細胞の関わりに関する研究、組識、宿主との関わりに関する研究、そしてヒト社会との関わりに関する総合的な研究を持続的に支援することが必要と思います。

Q これからぜひ実現させたいことは何ですか。

データベースの共有基盤ができたので、これをどのように維持、発展、活用するかが課題です。また、WHOなどと協力し国際的な相互利活用も大切です。当該事業ではウイルス下痢症のデータベースを手始めに着々と進めます。

次に人材の育成です。ポストの減少でわが国の微生物学、感染症研究者は減る傾向にあります。AMEDでは博士号取得後の若手研究者を一定期間採用してサポートしたいと考えています。AMEDの研究開発課題には未知の領域への挑戦が多く、多様な分野の研究者がいます。若い人々にとってとても魅力的な領域です。人材の育成とともに融合領域研究も促進したいと考えています。

最終更新日 平成29年8月22日