広報 インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―患者さんの協力で得た成果を患者さんにお返しする―

(日経サイエンス2017年6月号 別冊特集より転載)

難病克服プロジェクト
患者さんの協力で得た成果を患者さんにお返しする

写真(葛原茂樹プログラムディレクター)

プログラムディレクター 葛原茂樹
鈴鹿医療科学大学大学院医療科学研究科長

Q AMEDになって、このプロジェクトはどう変わりましたか。

このプロジェクトの多くの事業は厚生労働省から引き継がれたものですが、AMEDになって研究費の管理などの体制がより整い、研究がスムーズに進むようになりました。またいい意味で、研究者の意識も変わりました。実用化をめざし、安全性や有効性の確認など創薬のアプローチの方法に従って研究を進め、知的財産権も重視するようになったと感じます。さらに、iPS細胞を用いて研究を行うなど、ほかの事業と連携しやすくなったことも、AMEDのよい点です。

Q 難治性疾患実用化研究事業では、どのように課題を選定していますか。

難病の種類は多く、指定難病だけでも300を超えます。遺伝子レベルで考えれば、遺伝子の数だけ病気があるといっても過言ではありません。応募課題の数も多いので、課題の選定には公平さが求められます。そのため、医学、遺伝学、薬学、疫学などの専門家に課題評価委員をお願いし、それぞれの視点で評価していただいた結果を総合して、選定しています。また、この事業では治療法の実用化をめざしているため、診断基準があることを選定基準の1つとしています。難病の中には、患者数が少なく、あまり知られていないために研究が遅れているものもありますが、このような課題選定により、そうした難病にも研究費が配分されるようになってきたと思います。

Q IRUD(未診断疾患イニシアチブ)はどのような経緯で始まったのですか。

IRUDは、診断がつかない病気の患者さんの遺伝子を調べ、その結果を症状と照らし合わせて診断を確定するシステムです。このひな形は米国NIHにあり、理事長の主導によって日本でも始まりました。

診断の確定には、遺伝子と症状の情報が複数の患者さんについて必要になります。小児医療では、患者さんのあらゆる病気を1人の小児科医が診るため情報が集まりやすく、IRUDでも早く基盤を構築できました。しかし、成人医療では診療が臓器別の専門に分かれているために、情報が集まりにくいという問題があります。そこで、IRUDでは,拠点病院を設けるなどの体制づくりに力を入れています。また、国内だけでは症例が少ない疾患もあり、海外から情報を集めることが必要なため、IRDiRCという国際的難病コンソーシアムに加盟するなど、国際連携を進めています。

Q 今後はどのようなことをめざしていますか。

このプロジェクトは難病の治療法の実用化を目的としていますが、そのためには、AMEDの成果を企業にうまくバトンタッチできるしくみづくりが必要です。難病薬は市場が小さいなどの理由で企業は開発を敬遠しがちですが、利益があがるように企業自身も開発のしくみを見直し、積極的に研究開発に参加してほしいと思います。一方で、新しいシーズを生み出すために、今後は実用化研究だけでなく基礎研究にも力を入れていきたいと思っています。基礎にせよ、実用化にせよ、難病の研究には患者さんの協力が欠かせません。患者さんが主役になって、研究を推進し、その成果を患者さんにお返しできるように研究を進めていきたいと思います。

最終更新日 平成29年8月29日