2017年度 研究事業成果集 アルツハイマー病の早期診断を目指した高精度MRIの開発

アルツハイマー病の早期診断を目指した高精度MRIの開発

産学連携部 医療機器研究課

産学双方の技術を融合、新しいMRI検査法の開発を目指す

高齢化に伴い認知症の患者数が増加し、2025年には約700万人に達するとされています。アルツハイマー病は早期発見できれば投薬治療により症状の進行を抑えられる可能性があるため、早期診断方法の確立が期待されています。北海道大学病院の工藤與亮准教授(当時)らのグループは、日立製作所と共にMRIの画像診断を認知症の早期診断に活用する研究を進めており、2018年度中に臨床評価を完了し、早期実用化を目指しています。

■ハイブリッド撮像ができるMRI装置

取り組み

アルツハイマー病をはじめとする認知症では、脳の機能低下に伴い脳萎縮や脳血流の異常などが生じます。さまざまな病気の検査に幅広く使われている脳のMRI検査では、特に三次元画像から脳の特定部位の萎縮を客観的に評価する手法VBM(Voxel Based Morphometry)が認知症診断で一般的に用いられています。ただ、VBMだけでは認知症を早期に診断することや診断を確定することは難しく、より精度の高い診断法の開発が求められていました。

アルツハイマー病では、大脳基底核や扁桃体など特定の領域に鉄が沈着することが明らかになっています。日立製作所は脳の特定領域における鉄の沈着を定量解析するMRI診断技術QSM(Quantitative Susceptibility Mapping)を開発し、パーキンソン病などの神経疾患の早期診断に活用してきました。そこで北海道大学病院放射線部の工藤與亮准教授(現診療教授)の研究グループと日立製作所は、AMEDの未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業「認知症の早期診断・早期治療のための医療機器開発プロジェクト」において、QSMとVBMの2つの技術を組み合わせた精度の高い検査法を開発することによって、アルツハイマー病の早期診断を可能とすることを目指しています。

■ QSMの原理
■ QSMにより鉄の沈着や静脈を明るく撮像できる

成果

研究グループは、QSM解析に必要な情報を保ちつつVBM解析ができるハイブリッド撮像方法を新たに開発し、これによりVBMによる脳の萎縮を定量化する画像と、QSMで鉄の沈着を定量化する画像とを同時に撮像できるようになりました。また画像診断の精度向上のために、定量性を保ちながら検査時間を5分程度に短縮する技術を開発。この技術は患者さんの負担やストレスを大きく軽減し、より多くの患者さんを撮像できるようになります。

開発したハイブリッド撮像法を北海道大学病院のMRI装置に実装し、認知症患者さんおよび健康な方のボランティアを対象に臨床研究が始まっています。既に認知症の患者さん50例以上の撮像を行いました。

■認知症の発症前診断が可能に

展望

北海道大学病院は、認知症の患者さんおよび健康な方の脳を撮像し比較することにより、認知症に特徴的な磁化率の変化や脳局所の萎縮変化を検出した臨床データの蓄積・分析を行い、認知症の早期診断法の確立、検証を進めます。日立製作所は、VBMとQSMのハイブリッド撮像方法を搭載したMRI装置の早期実用化を進めていきます。産学双方の技術を融合したハイブリッド撮像・解析法は、認知症を発症する前の段階のスクリーニング検査として利用されることが期待されています。

最終更新日 平成30年11月15日