2017年度 研究事業成果集 インフルエンザの病態解明を目指した生体イメージング技術

インフルエンザの病態解明を目指した生体イメージング技術の開発

創薬戦略部 医薬品研究課

マウス生体肺の中でインフルエンザウイルス感染の動態を観察

インフルエンザウイルスの感染で、肺に急性の強い炎症が起き、重症化して死に至ることがありますが、急性組織障害がどのように起こるかは十分に解明されていません。東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らの研究グループは、インフルエンザウイルス感染細胞や免疫細胞の動態を、生きたマウスの肺の中で詳細に観察することに成功しました。このイメージング技術を用いた研究により、インフルエンザの重症化の過程などの解明が期待されます。

取り組み

季節性インフルエンザは、シーズンごとに国内で約1000万人が罹患し、免疫力の弱い乳幼児や高齢者では重症化することもあります。また、鳥インフルエンザの中には、H5N1亜型のように、ヒトでの致死率が50%に達する高い病原性のものが存在し、東南アジアやエジプトなどで800件以上、ヒトへの感染が報告されています。インフルエンザの重症化は主に肺の急性組織障害が原因です。インフルエンザの治療には、できる限り感染初期にノイラミニダーゼ阻害剤などの抗ウイルス薬による薬物療法を行うことが効果的ですが、どのようにして重症化するのかは十分に明らかにされていないため、ひとたび重症化すると有効な治療法はありません。東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らの研究グループは、インフルエンザウイルスによる肺の急性組織障害の病態を解明するため、高病原性ウイルスを扱うことの可能なバイオセーフティーレベル3の動物実験施設内に、生体イメージングを行うための装置を構築しました。

成果

これまでは、心臓や呼吸の動きが影響するために、生きた動物の肺を細胞レベルで観察する生体イメージングは、非常に難しいとされていました。しかし研究グループは、生きたマウスの肺の動きを制御するために、独自の保定器具を開発し、「2光子レーザー顕微鏡」による肺の細胞および免疫細胞の状態の観察を可能としました。

蛍光タンパク質の遺伝子を組み込んだインフルエンザウイルスを用いて感染細胞が光るようにし、免疫細胞のひとつである好中球の肺の中での動きを、この2光子レーザー顕微鏡技術を用いて詳細に解析しました。通常なら好中球は活発に動き回っているのですが、インフルエンザウイルスが感染した肺では、好中球の多くは動きが鈍くなっており、感染細胞に接着している様子も認められました。

また、好中球が感染細胞をどのように攻撃しているかを詳しく調べるために、共焦点顕微鏡イメージと走査型電子顕微鏡イメージを重ね合わせる「光-電子相関顕微鏡法」(CLEM)を用いることにより、好中球が感染細胞を排除するために、接着して包みこんでいるかのような細胞間の微細構造を観察することに成功しました。

■インフルエンザウイルスの病原性解明を目指す総合的な画像解析システム

展望

今後、このイメージング技術を用いた詳細な研究を行うことで、インフルエンザウイルス感染後に肺の急性組織障害が起こる仕組みや、病態の解明が進むと考えられます。さらに、新しい抗インフルエンザ薬やインフルエンザ重症例の治療法開発が進むことも期待されます。

最終更新日 平成30年11月15日