2017年度 研究事業成果集 「病気になると不安になる」原因の一つが免疫細胞の活性化であることを解明

「病気になると不安になる」原因の一つが免疫細胞の活性化であることを解明

基盤研究事業部 研究企画課

免疫活性化によって不安・恐怖が高まるメカニズムなどを解明

化学研究所のシドニア・ファガラサン チームリーダーが率いる研究グループは、AMEDの革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)において、免疫活性化によって不安や恐怖が引き起こされるメカニズムを明らかにしました。免疫系と神経系というこれまで関連が分かっていなかった生理システム間の相互作用の一端が解明されたことで、今後、新たな診断法や治療薬の開発にもつながると期待されています。

■免疫活性化によって不安や恐怖が亢進するメカニズム

PD-1欠損マウスは、全身のリンパ節でT細胞が活性化・増殖し、トリプトファンをT細胞内に大量に取り込みます。血中のトリプトファンが減少すると、脳内のトリプトファンも減り、トリプトファンを前駆体とするセロトニンの産生も減少します。精神を安定させるセロトニンの減少で、不安様行動を亢進し恐怖反応が増強します。

取り組み

免疫細胞には、T細胞、B細胞、樹状細胞などさまざまな細胞があります。中でもT細胞は、風邪や病気などで活性化されると、細胞内の代謝を変化させて持続的に増殖することが知られています。しかし、T細胞の持続的な活性化が、体全体の代謝にどのような影響を与えるかは分かっていませんでした。理化学研究所 統合生命医科学研究センター粘膜免疫研究チームのシドニア・ファガラサン チームリーダー、宮島倫生研究員らは、免疫を抑制させるPD-1という受容体が欠損しているマウスを用いて、常にT細胞が活性化している状態を作り出し、どのように体の代謝が変化するのかについて詳しく調べました。

研究成果

常にT細胞が活性化している状態のPD-1欠損マウスの代謝物質を調べた結果、野生型のマウスに比べてエネルギー産生に関わる化合物が減少しており、中でもアミノ酸のトリプトファン、チロシンなどの血中濃度が減少していることが分かりました。さらにT細胞がアミノ酸量の変化に関与しているかを調べたところ、T細胞に依存していることが分かりました。このことからT細胞が全身のリンパ節で活性化・増殖すると、細胞内にトリプトファンやチロシンといった特定のアミノ酸を大量に取り込んでいることを突き止めました。

PD-1欠損マウスでは、脳でもトリプトファンやチロシンが減少しており、それらのアミノ酸から作られるセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質も減少していました。研究グループは、PD-1欠損マウスの血液中のトリプトファンとチロシンの減少が、脳内でも起き、そのことがドーパミンやセロトニンの減少につながっている可能性を指摘しています。ドーパミンは運動、ホルモンバランスを制御し、セロトニンは不安、恐怖などを制御することが知られており、実際にモデルマウスを使って行動変化を調べた実験では、PD-1欠損マウスは不安行動や恐怖反応が高まった状態になっていることが分かりました。

これらのことから、免疫細胞の活性化が不安行動や恐怖反応を高めるというメカニズムと、免疫系と神経系の生理システムが相互に作用する仕組みの一部が科学的に明らかになりました。

展望

免疫系の異常によって引き起こされる精神疾患や、免疫系が常時活性化されている自己免疫疾患などに併せて精神疾患が認められる場合の発症原因の解明や診断法・治療法の開発につながることが期待できます。

最終更新日 平成30年11月15日