2018年度 研究事業成果集 人工知能(AI)を搭載した内視鏡診断支援装置を開発し、販売開始

AIを内視鏡診療に導入することで、医療水準の向上に期待

昭和大学の工藤進英教授らは名古屋大学の森健策教授、サイバネットシステム株式会社と共同で、超拡大内視鏡(体内で細胞レベルの観察ができる最新の内視鏡)を解析することで対象病変の病理診断を予測する人工知能(AI)ソフトウエアを開発しました。このAIはEndoBRAIN®というソフトウエアとして2018年12月に薬機法承認を取得し、一般診療で使用することが可能となりました。2019年3月にはオリンパス株式会社より一般販売が開始され、AIが日常診療に普及しつつあります。

取り組み

大腸がんは日本人女性のがん死亡数の第1位、男性でも第3位と近年増加傾向であり、効果的な対策が求められています。その対策として、大腸内視鏡で早期がんや前がん病変である腫瘍性ポリープを切除することで、大腸がんによる死亡を大幅(53~68%)に減らせることが知られています*1。しかし、内視鏡検査中に発見されるポリープの中には、切除する必要のある腫瘍性ポリープと、切除する必要がなく腫瘍ではないポリープ(非腫瘍性ポリープ)があり、医師は検査中に両者を的確に区別する必要があります。仮にこの区別が正確にできない場合、不必要な内視鏡治療をしてしまったり、前がん病変である腫瘍性ポリープを放置してしまったりする可能性があります。この区別を正確に行うことができるのはトレーニングを積んだ専門医であることから、長期間のトレーニングが必要です。このような内視鏡診療の課題をクリアすることを目的として、昭和大学横浜市北部病院消化器センターは、名古屋大学の森健策研究室(AIアルゴリズム開発)およびサイバネットシステム株式会社(システム化担当)と連携して、内視鏡画像を解析し、医師による診断を補助するAIを2013年より研究・開発してきました。

*1
Zauber et al. N Engl J Med.2012., Nishihara et al. N Engl J Med.2013.

成果

まず、AIエンジンの検討を森健策教授らが行いました。AIはディープラーニングによって人間を超える精度があると注目されていますが、今回の検討ではサポートベクターマシンという1世代前の機械学習分類器をベースに画像特徴量を解析するAIが、超拡大内視鏡とマッチしてディープラーニングを超える精度を示すことが判明しました。

この成果をもとに昭和大学が国内の内視鏡先進4施設(国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、東京医科歯科大学、静岡県立静岡がんセンター)と共同でAIに学習させる画像を約6万枚集積し、AIの臨床性能評価試験を実施しました。その結果、AIは正診率98%、感度98%と専門医に匹敵する精度で腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープを識別でき、非専門医の正診率を上回っていることが示されました。このAIを一般臨床へ還元させるべく、薬機法の申請を行い2018年12月にクラスⅢ・高度管理医療機器として承認(承認番号:23000BZX00372000)を取得しました。このAIは「EndoBRAIN®」(図1、2)として2019年3月にオリンパス社より販売が開始されています。

図1 EndoBRAIN®の概要
図2 EndoBRAIN®の外観

展望

この研究で開発したEndoBRAIN®は、①日常診療でビギナーの医師でも高い精度で診断できるか、②海外の医師・患者で使用した場合に同様の結果が得られるかなどの課題があり、現在、国際共同研究で検証しています。

この研究で得られた知見を礎に、名古屋大学、サイバネット社、オリンパス社は共同でAMEDの8K等高精細映像データ利活用研究事業の中でもAI開発研究を実施しており、より応用的な課題に挑戦しています。その中で、大腸病変の検出支援AI、大腸がんの治療方針決定を支援するAIの開発も大詰めを迎えており、近いうちに上市が見込まれています。

最終更新日 令和2年6月23日