2019年度 研究事業成果集 術後のQOLを改善させる心・血管修復シートの事業化

日本独自の創意工夫を散りばめたイノベーティブな医療材料

大阪医科大学の根本慎太郎教授を中心とする研究開発グループは、自己組織と一体化し、成長に合わせて伸長可能な心・血管修復シートを開発しました。従来使用されている海外製品に打ち勝つために、日本の技術により創意工夫を散りばめたイノベーティブな医療材料です。現在、治験中で、実用化すれば、身体の成長に合わせて材料の伸長が必要となる先天性心疾患の小児への使用に対して、再手術のリスク低減が期待されます。

取り組み

日本では年間約100人に1人が、心臓や血管の形が異なる病気である先天性心疾患を持って生まれてくると言われています。先天性心疾患の手術は年間約10,000件実施されており、多くは新生児~小児期に手術が行われています。

これまで、先天性心疾患における組織欠損部の補填や狭窄部の拡大などの修復を要する心臓血管手術には、ウシなどの生物由来原料のパッチや、人工パッチが使用されています。既存のパッチに共通した課題として、いずれも非生分解性材料であることから、心臓や血管の成長に伴う伸長性を持たないため、術後遠隔期に血管の再狭窄等の問題が発生しています。これらはいずれも海外の製品で、過去には生物由来原料のパッチで、国内の安定供給に支障をきたしたことがありました。

近年、自己組織を用いた修復手術が普及していますが、自己の心膜を用いる際は、グルタルアルデヒド(GA)処理後、手術室で洗浄して使用するため、毒性のあるGA残留のリスクがあるとともに、長期埋植後の変性や石灰化を招くとの指摘があります。また、患者の個人差などによってパッチとして適した心膜が採取できるとは限りません。

本グループが開発したシートは、これら医療現場に存在する心臓血管外科手術時の課題を解決するために、大阪医科大学の豊富な知見と、福井経編興業株式会社の優れた経編技術、帝人のポリマー解析技術を組み合わせたことにより創出されたイノベーティブな医療材料です。

本開発の取り組みはこれまで、さまざまなメディアに取り上げられています。中でも、小説・ドラマ「下町ロケット2−ガウディ計画−」のモデルとなり、大きな反響を呼びました。

成果

2014年より大阪医科大学、福井経編興業株式会社及び帝人株式会社の連携により開発を進めてきた本品は、医療現場のニーズを起点にコンセプトが生まれました。衣料分野で培った優れた福井経編興業株式会社の編み技術を活かして、生分解性の繊維と非生分解性の繊維の二種を用いた経編を開発し、これを漏血防止のための生分解性生体適合膜と複合化した心臓血管修復シートを開発しました。試作品を用いた動物実験で、医療現場と同じように動脈系及び静脈系に埋植したところ、海外製品と比較していずれもより良好な組織再生を確認しました。また、これらのデータを基に、小児心臓外科領域のKey Opinion Leaderにヒアリングを実施したところ、良好な評価と製品展開への助言をいただきました。

本品には、ユーザーである医師を中心に強い期待と高い関心が寄せられており、2019年5月、治験第1例目として先天性心疾患患者を対象に本品を使用後、すでに複数例の患者に使用し、本品の安全性及び有効性の検証を進めています(図)。

図 プロジェクトの道のり

展望

本品は「先駆け審査指定制度」の対象品目となっており、治験終了後は早期承認取得を目指します。また医療現場で得られた情報を基に、より使いやすく改良を行い、さらに本技術を応用した新製品の開発へ繋げていきます。また、日本発のイノベーティブな医療材料を世界へ発信するため、今後、世界規模での販売チャネルを確保し、販売ノウハウを確立することにより、世界の先天性心疾患患者の治療及びQOL向上に貢献します。

最終更新日 令和3年8月13日