2019年度 研究事業成果集 プロジェクションマッピング技術を手術ナビゲーションシステムに応用

切離線を臓器に直接投影し、より安全で正確な手術を実現

エンターテインメントとして用いられてきたプロジェクションマッピング技術を外科手術に応用する、世界初の手術ナビゲーションシステム(MIPS)を開発しました。蛍光発光部位を明示することで手術中に臓器が動いたり変形したりしてもリアルタイムで追従し、切離線などを臓器に直接投影できるため、より安全で正確な手術を短時間で行うことが期待できます。

取り組み

肝臓がんに対する手術では、腫瘍を含む領域の正確な切除が、短期的には術後の肝機能維持に、長期的にはがんの根治に極めて重要です。そのため術前CT画像を用いた三次元シミュレーションや、近赤外光で蛍光を発する色素(インドシアニングリーン:ICG)を用いた蛍光ナビゲーション手術が開発されています。しかし、術前シミュレーションはリアルタイムの情報ではなく術中の臓器の動きや変形に対応できません。ICG蛍光画像はモニタに提示された画像を見るため術野とモニタの間で頻回の視線移動を要するという問題や、無影灯の光との干渉を取り除くため無影灯を消さねばならず術野が暗くなるという問題がありました。

パナソニック株式会社は、AMED産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M)において、京都大学・三鷹光器株式会社と共同で、プロジェクションマッピング技術を応用した、可視光投影装置(Medical Imaging Projection System:MIPS)を開発しました(図1)。

図1 MIPS(Medical Imaging Projection System)

術野上にあるカメラで撮影したICG画像から投影画像を生成して、プロジェクターで手術中の臓器に直接投影します。カメラとプロジェクターは、光学系の軸を誤差なく合わせているので、ICG発光位置にほとんどずれなく投影できます。手術中に臓器が動いたり変形したりしても、リアルタイムで追従できるため、手術の精度が高まり、腫瘍を含む領域をより正確に切除することが可能になります(図2、3)。

図2 MIPSを導入した手術室
図3 切離線を表した肝臓の模型
肝臓のICG発光をもとにリアルタイムナビゲーション手術が可能

成果

MIPSの特徴は、①ICG蛍光画像が直接臓器に投影されるため、執刀医が視線を動かさずに手術に集中できること、②MIPSの光は蛍光領域を特定色、蛍光領域以外を白色としてあり、無影灯を用いずMIPSの光のみで明るい術野で手術ができること、③手術中の臓器の移動や変形にリアルタイムで追従できることです。

京都大学医学部附属病院でMIPSを用いて肝切除術を行った臨床研究では、23例中21例で切離線が術前シミュレーション画像と同じ形態に明瞭に投影できること、MIPSを使用した方が正確に切除できた面積の割合が高くなることを確認しました。また、MIPSを用いなかった29例と比較した結果、統計学的な有意差は見られなかったものの臨床的予後は良好な傾向にあり、MIPSを使った手術が安全に施行できていることも分かりました。

展望

MIPSは2019年11月にクラスⅡ医療機器の製造販売承認を取得しました。MIPSを用いることにより、手術を行う外科医の負担が軽減し、より安全で正確な手術を短時間でできるようになり、患者のQOLが向上することが見込まれます。肝切除術以外に、すでに乳がん手術で行われるセンチネルリンパ節の同定にも使用されています。今後、肺がんに対する肺切除術や甲状腺がんに対する甲状腺切除術などへの応用も期待されています。

最終更新日 令和3年8月13日