2019年度 研究事業成果集 バイオバンクに保管されている試料・情報を一括で検索可能なシステムを開発

バイオバンク試料・情報の「見える化」、利活用に大きく貢献

東北大学東北メディカル・メガバンク機構の荻島創一教授を中心とする研究開発課題グループは、3大バイオバンク*1及び診療機関併設型バイオバンク4機関をネットワーク化して、各バイオバンクが保管する試料・情報に関する共通の検索項目を揃え、利用者が必要とする試料・情報の所在がWeb上で一括で検索できるシステムを開発しました。この横断検索システムを利用することにより、バイオバンク試料・情報の利活用を促す可能性が示唆されました。

*1 3大バイオバンク
バイオバンク・ジャパン、東北メディカル・メガバンク計画、ナショナルセンター・バイオバンクネットワークです。

取り組み

バイオバンクは、ゲノム医療研究、創薬開発等にとって重要な研究資源となっています。しかしながら、国内には数十ものバイオバンクが存在しているものの、疾患名や収集している試料・情報の種類、保管・品質管理方法、利用条件・手続き等がまちまちです。アカデミアに限らず企業の研究者にとっては、必要とする試料・情報にアクセスし難い状況にあり、有効に利活用が図られていないのが実状です。
「3大バイオバンクを研究基盤・連携のハブとして、『貯めるだけでなく、活用されるバンク』として再構築すべき」とのゲノム医療実現推進協議会中間とりまとめ(2015年)*2を受け、2018年度、ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業では、3大バイオバンクならびに岡山大学、京都大学、東京医科歯科大学、筑波大学の診療機関併設型

バイオバンクが連携して取り組む新たなプログラム「ゲノム研究プラットフォーム利活用システム」を開始しました。バイオバンク横断検索システムの開発・運用を通じて、各バイオバンクの多様性は活かしつつも、共通化できる部分はできるだけ共通化を図りながら、利用者の求める試料・情報が煩雑な手続きを経ずにできるだけ迅速に提供できることを目指して取り組んでいます(図1)。

図1 バイオバンク横断検索システムの運用体制と利用イメージ
*2 ゲノム医療実現推進協議会中間とりまとめ
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/pdf/h2707_torimatome.pdf

成果

2019年10月、「バイオバンク横断検索システム」初版を公開しました(図2、3)。開発過程では、プロトタイプを基にバイオバンク利用に強い関心を持っている日本製薬工業協会、日本臨床検査薬協会等、利用者の方々の意見を積極的に反映しました。2020年7月時点で、総計約42万人の協力者、約86万個の試料、20万件以上の情報が検索対象です。なお、検索に用いる共通項目は、病名、性別、年齢、既往歴、試料種類、解析情報種類を採用しています。

図2 バイオバンク横断検索システムの使い方3ステップ
図3 検索結果例

また、2020年3月に「バイオバンク利活用ハンドブック」の初版を完成し、公開しました。バイオバンク利用者が、「バイオバンク横断検索システム」を利用して検索した後、試料・情報を入手しようとする段階で直面する諸手続き等について、東京医科歯科大学生命倫理研究センター吉田雅幸教授を中心とする共同研究開発グループが整理して取り纏めました。

展望

今後、検索項目に試料品質管理情報、疾患特異的臨床情報、同意情報を加えることにより、利用ニーズに応えた「バイオバンク横断検索システム」の高度化を実現する予定です。また試料・情報を入手する際の各種手続きを簡便にすることが、利用者にとって最も利便性を高めることから、「バイオバンク横断検索システム」にてWebでの共通フォームによる利用申請書の自動作成機能や更には使用申請システムを用いた各バイオバンクの利用手続きの簡素化も計画しています。

海外では、バイオバンクに関する国際学会ISBERがInternational Repository Locator(IBL)を運用し、EU諸国を中心とするバイオバンクに関するネットワーク組織、BBMRI-ERICがDirectory4.0としてレポジトリサービスを運用しています。検索項目は国際的に採用されている共通コードを使用していますので、将来的な連携、ネットワーク化も期待されます。

最終更新日 令和3年8月13日