2019年度 研究事業成果集 様々なインフルエンザを防御する抗体誘導法の開発

万能インフルエンザワクチンへの応用の期待

インフルエンザウイルスは、過去に新型ウイルスによる世界的大流行を引き起こすとともに、毎年世界中で数十万人の超過死亡を引き起こす原因ウイルスです。国立感染症研究所免疫部の高橋宜聖部長、安達悠主任研究官らの研究グループは、様々なインフルエンザウイルス亜型を防御することが可能な交差防御抗体を発見するとともに、この抗体を誘導しやすい改変型ワクチン抗原を特定しました。

取り組み

現行のインフルエンザワクチンは、ワクチンと同じ型のウイルスに対して効果がありますが、他の型のウイルスに対して十分な有効性が得られません。そのため、季節性・鳥インフルエンザなどの異なるインフルエンザウイルス全てに有効な万能インフルエンザワクチンの創出が望まれています。

本研究グループは、インフルエンザウイルスを感染させたマウスモデルにおいて、さまざまな型のインフルエンザウイルスを防御可能な“交差防御抗体”が誘導されることに着目して研究を進めてきました。その結果、インフルエンザウイルスが複製する気道部位において交差防御抗体が誘導されやすいことをこれまでの研究で明らかにしていました。

本研究では、従来の研究成果を発展させ、ハイスループットな手法によって網羅的な解析を実施することで新しい交差防御抗体を見出しました。さらに、この交差防御抗体を誘導しやすいワクチン抗原の創出を目指しました。

成果

インフルエンザウイルスに対する防御抗体の多くは、ウイルス表面のヘマグルチニン抗原に結合することが知られています。本研究グループが見出した交差防御抗体もヘマグルチニン抗原に結合しますが、通常の防御抗体と異なり、ヘマグルチニン抗原の内側に隠れた領域を認識することを明らかにしました。

この構造的特徴のため、通常のヘマグルチニン抗原を含む現行のワクチン抗原では、交差抗体を発現するリンパ球に結合して活性化することができません。しかし、酸性処理を施すことで構造を変化させた改変型ヘマグルチニン抗原では、内側の抗原領域が露出し、交差抗体陽性のリンパ球が抗体を産生できることを明らかにしました。(図1)。

図1 通常のヘマグルチニン抗原に酸性処理を施した改変型では、隠れていた抗原領域が露出する

現行ワクチン(通常のヘマグルチニン抗原を含む)と、改変型ワクチン(改変型ヘマグルチニン抗原を含む)をそれぞれヒト化マウスに接種すると、改変型ワクチンではヒト交差防御抗体が誘導されることを確認しました(図2)。

図2 改変型ワクチンをヒト化マウスに接種すると、ヒト交差防御抗体が誘導できる

加えて、このヒト交差防御抗体の中には、季節性インフルエンザウイルス(H3、H1)と鳥インフルエンザウイルス(H7、H5)を含む複数の型に強く結合する抗体が含まれていることを突き止めました(図3・左)。

図3 発見したヒト交差防御抗体は、季節性・鳥インフルエンザを含む複数の亜型をカバーし感染を防御する

このヒト交差防御抗体には、鳥インフルエンザウイルスの感染に伴うマウス死亡を阻止する効果があることも確認できました(図3・右)。

展望

現在、万能インフルエンザワクチンの実用化が世界中で切望されています。本研究で見出した改変型ワクチンは、少なくとも動物モデルにおいてヒト交差防御抗体を効率的に誘導できることが確認できました。さらに、この改変型ワクチンは、現行ワクチン抗原から比較的簡単な手順で作製することが可能であり製造面でもメリットがあると考えられます。

今後、このワクチンの安全性・有効性を非臨床・臨床試験で検証することで、本研究成果が日本発の万能インフルエンザワクチンに繋がることが期待されます。

最終更新日 令和3年8月13日