2019年度 研究事業成果集 診療画像を集積したデータベースを構築し画像診断を支援する人工知能を開発

多様な臨床画像を用いた人工知能プロトタイプを開発

診療画像を扱う6つの学会と国立情報学研究所は、診療画像の大規模データベースおよび共通プラットフォームを構築し、医療ニーズを見据えた人工知能(AI)の研究開発を行っています。診療画像を用いた診断支援は、2017年に開催された、厚生労働省「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」においてAI開発を進めるべき重点領域にも選定されており、日本の医療技術の強みが発揮できる領域として期待されています。

取り組み

近年、医療分野においてもディープラーニングを用いたAI開発は大きな注目を集めています。特に診療画像を用いた診断支援AI開発の領域では、海外の大手企業がその開発を加速し、日本でも画像診断支援AIが医療機器として承認されるなど、世界中で激しい開発競争が繰り広げられています。

本事業では、日本病理学会、日本消化器内視鏡学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会、日本皮膚科学会、日本超音波医学会の6つの学会でデータベース基盤を、国立情報学研究所でAI開発のための共通プラットフォームを構築しています。

これまでに、画像診断を支援するための多くのAIプロトタイプが開発され、実用化に向けた研究が進められています。また、この共通プラットフォームでは、AI開発のための情報・技術の共有に加えて、複数の医療機関での情報共有や、地域医療を支援するための社会実装およびプロトコールの標準化など、学会間の共通の課題についても協働する体制を構築してきました(図1)。

図1 臨床画像情報基盤の全体像

成果

データ基盤の構築

データベース間の情報連携を可能にするためのデータ収集方法の標準化や、質の担保されたデータを継続的に収集する体制の構築、さらには匿名化や倫理面に関する課題の抽出とその解決法を提示する研究などを推進し、大量のデジタル診療画像を集積するデータ基盤を構築しました。

これまでに、6つの学会でそれぞれの学会に特有の診療画像を収集するためのデータベースを開設し、その集めた診療画像の総数はすでに1億枚を超えています。また、国立情報学研究所には、匿名化した医療画像データを格納するファイルサーバーと機械学習を行う計算サーバーから構成されるオンラインプラットフォームを構築しました。

AIプロトタイプの開発

専門医とAIの研究開発者が、開発するAIの「対象疾患とその特徴」やAIに求められる「診断補助・治療方針の提案・鑑別などのタスク」、さらにはAI開発に必要な「診断名・検査値・他画像データなどの付帯情報」ならびに「症例の抽出方法」などについて密に連携して協議することにより、医療現場のニーズを指向したAIを開発してきました。

これまでに、胃生検のデジタル病理画像から胃がんの病理診断を支援するAI(日本病理学会)、胃の内部を31部位に分類し上部内視鏡検査の見落としを防ぐ逸脱監視AI(日本消化器内視鏡学会)、くも膜下出血を検出するAI(日本医学放射線学会)、眼底写真を用いて緑内障を鑑別するAI(日本眼科学会)、多様な皮膚画像に対して疾患候補を挙げるAI(日本皮膚科学会)、肝腫瘍の診断AI(日本超音波医学会)などの様々なAIプロトタイプが開発されました。さらには、日本病理学会では、上記の胃生検病理診断AIエンジンを病理医不足が深刻な福島県内の7病院で組織した遠隔病理診断ネットワークに導入し、機能確認ならびに施設間で異なる標本の質や色味によるAI診断への影響・補正などを実証する実験を行い社会実装しました(図2)。

図2 遠隔病理診断ネットワーク(福島モデル)でのAI実装

展望

本事業では、これまでに構築したデータベース基盤及び共通プラットフォームを用いて、医療ニーズに即したAIの研究開発を推進します。

また各学会では、持続的なデータエコシステムを構築するために収集した診療画像データを用いた企業等との共同研究、AIの実用化・社会実装、データ提供者へのインセンティブの付与などを検討しています。

最終更新日 令和3年8月13日