AMEDシンポジウム2019開催レポート AMEDシンポジウム2019開催レポート(1日目):パネルディスカッション
これからのAMEDに期待すること
- パネリスト
- 藤原 康弘氏(医薬品医療機器総合機構 理事長)
- 中山 讓治氏(日本製薬工業協会 会長)
- 渡部 眞也氏(日本医療機器産業連合会 副会長)
- 伊藤 たてお氏(日本難病・疾病団体協議会 理事)
- 本田 麻由美氏(読売新聞 編集局生活部 次長)
- モデレータ
- 難波 吉雄(AMED 統括役)
革新的な製品の実用化に向けたPMDAの取組み
藤原 康弘氏(医薬品医療機器総合機構 理事長)
2015年にPMDAとAMEDは連携協定を結びました。その中で、研究課題を実用化段階に移行する場合には、PMDAでの薬事戦略相談(現 レギュラトリーサイエンス戦略相談)を受けることを採択の条件とすることや、AMEDの臨床研究・治験基盤の整備にPMDAの研修講師を派遣したり、状況を双方で確認し合い情報共有するなどしています。
PMDAはアカデミアと連携しiPS細胞をはじめ最先端技術へ対応する、科学委員会の事務局を務めています。また、様々なCutting edgeな技術がどう薬事の世界に反映できるかを常に考える組織であるレギュラトリーサイエンスセンターが2018年に設置されました(図1)。現在、医療情報活用部、研究支援・推進部、次世代評価手法推進部で対応しています。
AMEDとのプロジェクトとして、リアルワールドデータを研究開発に活かすことに取り組んでいます。画像診断やDNAのデータベースなどは整えやすいのですが、例えば、希少疾患の場合、患者や疾患のレジストリをどのように活用するかは未だ難しい状況にあります。また、PMDAでは、信頼性担保にも取り組むため、2019年4月から3つのレジストリに関する治験相談の事業を開始しました。この相談事業を活用していただき、各種データの活用をさらに発展させていきます。
これからのAMEDに期待すること
中山 讓治氏(日本製薬工業協会 会長)
製薬産業の使命は、革新的で有用性の高い医薬品の研究開発と提供を通じて世界の人々の健康と福祉の向上に貢献することです。しかし近年、企業単独での新薬開発は難しい状況であり、産学官連携によるオープンイノベーションが重要になっています。そこで、日本製薬工業協会は、イノベーション創出に向けた環境整備に向けて強化すべき3つの課題、①予防・先制医療ソリューションの早期実用化、②健康医療ビッグデータの構築とAIの開発・活用、③ヘルスケアイノベーション創出エコシステムの構築、について提言を行い、その実現に向けた取り組みを進めています。
また、AMEDの機能強化に関して、①AMEDの予算、人材、体制、②オープンイノベーションのさらなる推進、③レギュラトリーサイエンスのさらなる推進、④人材の育成、⑤既存事業の拡充の5つの提案を行っています(図2)。
現在の日本は、少子高齢化や人口減少を受けて、悲観的な未来予測がよく聞かれますが、ライフサイエンス・イノベーションを更に推進していくことにより健康寿命を延伸し、人生100年を通じて活き活きと活躍できる社会を築くことができれば、必ず、明るい未来に進んでいくことができると信じています。そのために我々も積極的に貢献していきます。
これからのAMEDに期待すること―医療機器・ヘルスケア産業の視点―
渡部 眞也氏(日本医療機器産業連合会 副会長)
医療機器の目指すところは、世界の人々の健康、医療水準の向上に貢献すること、優れた医療機器を国民、世界に安全かつ迅速に届けることだと考えています。一方で、デジタルイノベーションの時代が来ていることから健康長寿社会の実現に向けて取り入れていかなければなりません。
デジタル技術の最も大きな価値は、人間のケアサイクル、ライフコースをデータでつなげることだと思っています。病院でのデータ、日常の活動データがつながることで新しい価値が生み出され、医療サービスの提供方法が多様になっていくと考えます。
こうした中で、医療機器産業を「グローバル」、「イノベーション」、「基盤」に分けて11の戦略テーマを掲げて進めています(図3)。グローバル競争力を強化し新興国の医療へ貢献すること、これまでの高度医療、現場のニーズを拾い上げ、新しいデータを創出すること、人材育成、ベンチャー支援、異業種との連携基盤を構築することを進めていきます。
AMEDに対しては、①AMEDの人材・体制を強化し、研究成果の社会実装を視野に入れた人材交流などの推進、②オープンイノベーションで産官学をつないでの連携機能、③レギュラトリーサイエンスを推進し、データ利活用基盤の整備に期待していますが、が、そのためにより大きな視点で出口思考を持ち、統合的なプロジェクトへの戦略的な投資に期待したいと思います。
患者会と研究の共同とAMEDに期待すること
伊藤 たてお氏(日本難病・疾病団体協議会 理事)
「難病法」の第2条の基本理念のもと、私たちは主に、①全ての難病を医療費助成の対象にすること、②障害者と同じ福祉施策の要求、③難病患者の就労支援、④小児慢性特定疾患の成人科診療へのトランジション、⑤治療研究の推進と地域格差の解消、⑥高額医療費限度額の引き下げの6項目について活動してきました。
ゲノム編集時代になり「一日も早い原因究明と治療法開発」を切実に願ってきましたが、近年は生命倫理の確立が難しい局面を迎えています。科学技術や医療の発展に期待はしていますが、同時にそれだけで人は幸福になれないことを我々は提起しています。人は生きることの尊厳が守られ、その人として生きる場がなければ、いくら最高の技術で治療しても意味がありません(図4)。
また、難病患者・障害者・高齢者が社会保障の制度を同様に活用でき、同じ地域に住むことができ、最先端の技術・科学を享受できれば、本当に幸せだろうなと思います。
これからのAMEDに期待すること―記者として、患者として―
本田 麻由美氏(読売新聞編集局生活部 次長)
患者・市民参画の面では、「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」が公表され(図5)、臨床研究および治験の実施に当たっては、立案段階から被験者や患者の参加が促進されることで、研究者にとっては視点が広がり、患者・市民にとっては研究を身近に感じてもらえるきっかけになればと考えています。
がん対策基本法ができた当時、がん対策やがん医療に患者の視点を取り入れるため、国立がん研究センターに「患者・市民パネル」が設けられました。米国NCIのように、がんの臨床試験や治験の計画に患者が意見を言うための基盤にしてもらいたかったのですが、時期尚早ということで、まずは患者が自分の病気を知るためのテキストなどを医療者と共同で作成する役割などを担ってきました。やっと最近、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の臨床試験などの計画立案に患者参画の必要性が議論されるようになり、ようやくそういう時代になってきたのだと大変喜ばしく思っています。
こうした中で、AMEDに期待したいことの一つとして、PPIガイドブックをもう一歩進めて、患者・市民が研究者と臨床試験や治験について実際に議論していけるようにするための教育の場を設けるなどの取り組みを進めてほしい。様々な機関と連携して、臨床試験の計画立案にも患者参画が進むようなコーディネートを進めていただきたい。諸外国では患者参画がないとグラントも出せなくなっている時代。日本でも、研究の選定から計画、評価に患者・市民が入っていないのは不自然だと思います。産官学連携の研究推進は、こうした患者参画があってこそ実現できると思います。
また、AMEDには、実施される研究の価値を高めるという役割もあると思います。その役割を果たしたのが、認知症予防が可能かを検証する「認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較試験(J-MINT研究)」だと聞いています。今後の超・超高齢社会には大きな意義のある研究であると思いますが、研究者が当初検討していた内容を、省庁の縦割りなどを廃して、研究の質向上と、財源の有効活用ができる方向へと支援した好事例だと思います。さらには、研究成果の社会実装に向けて民間企業とも連携がしやすい仕組みが構築されていくことを期待しています。もう一つ、研究の透明性の確保と国民への情報発信にも、しっかり取り組んでもらいたいと思います。
ディスカッション
難波統括役 ここからは、AMEDの将来あるべき姿について話を深めていきたいと思います。私どものミッションは患者さんに一分一秒でも早く医療研究開発の成果を届けることです。AMEDへのさらなるご意見をお願いします。
藤原理事長 私的な考えですが、今後は医薬品や医療機器だけではなく食品からの予防が大事になってきます。予算や研究対象領域を拡大する中で、農林水産省と共同で食品でのさまざまな予防に関する研究を進めていただきたいです。例えば、スペイン政府はエクストラバージンオリーブオイルでの地中海食による健康予防研究を実施しており、「New England Journal of Medicine」などに比較試験のデータを発表して、食生活から健康を改善するというエビデンスを出しています。我が国も発酵食品を展開したエビデンスの構築ができないかを検討していただきたいです。
中山会長 医薬品創出の観点では、米国が最も多く新薬を創出している国であり、その半分はベンチャー企業のオリジンですが、日本ではベンチャー企業が創薬の主役ではありません。日本のアカデミアにはよいシーズがたくさんありますが、それを実用化するためには、人材を含め経験値の高い欧米のノウハウを取り込んだエコシステムを構築して、国民のために新薬につなげることが重要だと思います。
渡部副会長 医療機器やヘルスケアの役割が随分と変わり予防医学や在宅医療を含めて考えたときに、一つ一つのデバイスができればいい時代ではなくなりました。患者さんや生活者が中心にいて、複数の医師と技術、情報が一緒になって一つの新しいイノベーションをつくる時代になっています。AMEDの触媒としての役割に期待しています。
伊藤理事 先ほどPPIの紹介がありましたが、多くの方がPPIをわかっているかという疑問があります。とても良い考え方であり、良いパンフレットですが、それだけでは浸透していきません。また、当事者参加についても、その当事者がどの程度理解しているかなどがわからない現状があります。新聞やマスコミで取り上げられたことはわかっても、そこから先を考えていかないとアイデアは忘れられてしまうのではないでしょうか。
本田次長 産業としての医療と、患者や家族、国民が求める医療は、大部分は同じだと考えますが、患者・国民が少し違うと感じる部分があるとすれば、伊藤理事が講演で述べられた「科学技術や医療の進展だけでは人は幸福になれない」ことだと思います。病気・介護予防や健康寿命を延ばすことも大事ですが、幸せに死ねるための要素を研究の視点に入れていくことも必要だと思います。
難波統括役 ありがとうございました。続いてAMEDが果たすべき役割をお聞かせください。
藤原理事長 IT技術者やデータサイエンティスト、生物統計家などの育成事業をさらに拡大していただき、新しい職種の方を受け入れる体制の整備を皆で考えなければなりません。例えば、生物統計家を雇用したくても民間との給与格差があることから、養成された方々が公的組織に定着するように環境整備を整えることも大事だと考えます。
中山会長 創薬の立場からデータベースについて申し上げますと、東北メディカル・メガバンクやがんゲノム情報管理センター(C-CAT)等にがん情報を始め様々なデータが蓄積されようとしています。これらはまず、研究のためのデータベースをつくるという目的がありますが、患者さんのことを考えると、申請データに使えるようにすることが重要で、それにより新薬を加速度的に早く患者さんの手元に届けられるようになると思います。そういったところまで踏み込んで、AMED、PMDA、企業とで仕組みを構築していくことが大事だと考えます。
渡部副会長 データに対する期待は一致しており、さまざまな課題も指摘され尽くしていると考えますので、安心して使えるデータ環境やデータのひも付けなど、活用方法を一歩一歩加速させて、実行していくことだと思います。これまでを振り返ると、さまざまな目的を持って臨床研究やレジストリ、AI画像などのデータが積み上がっていますが、もう少し大きなスケールでのデータの蓄積が必要だと考えます。
もう一つ、ヘルスケアの面から見ると、ライフログが入ってくるとアプローチの質が変わってくるので、そこに関わる問題やその価値を出すための仕掛けなどを考えなければならないと思います。
伊藤理事 ゲノム研究が進むと単に遺伝子という科学技術の発展にだけ目が向いてしまいますが、医学を含めて全てが実際に利用可能かを見極めて研究を進めていただきたいです。
それぞれの時代に合わせた“幸せ”を加味した研究が必要だと考えていますので、人間学、あるいは患者学の分野も科学分野の一つとなるように興味を持っていただければ、嬉しいです。
本田次長 データマネジメント、データシェアリングをこれまで以上に進めていただきたいと思います。その中で、新薬を求める患者、治療法の開発を求める患者からみれば、企業治験であっても効率的・戦略的に進めるためにはデータマネジメントなどをしっかりやっていただく必要があると思っています。
難波統括役 ありがとうございます。データは誰のものかということであり、また、倫理面もクリアして安心して使えるデータの検討を進めていきたいと思っております。
2020年の4月から第2期の中長期目標期間へと移ることから、新たに6つの統合プロジェクトとして実施することになります。その点についてご助言をお願いします。
藤原理事長 次期中期計画で取り組んでほしいこととして、患者さんに対して科学の考え方をどう浸透させていき、それをどう実現するかに期待したいと思います。米国では、成果を俯瞰して実際の診療現場にどう実現していくかを科学で捉えています。そのように傾注していくといいかもしれません。また、レギュラトリーサイエンスの推進は、企業が最も心配している期待なので、規制がある中で安心して取り組める体制を進めていきます。
中山会長 近づきつつある高齢化社会に向けた医療イノベーションの推進において、AMEDは重要な役割を担っており、これまでも多くの成果を生み出してきました。その上でAMEDにはもう一段高いレベルでさまざまな成果を上げていただきたいと思います。そのためには、長期的にしっかり取り組める基金的なファンドがあるとよいのではないかと思います。このような基金を活用し、様々な産学官連携のプロジェクトを推進することが重要だと考えます。
また、新たなモダリティの医薬品が出てきて、これまで治らなかった患者さんを救うことができるようになってきましたが、いつもレギュレーションの問題が発生しています。PMDAと連携してレギュラトリーサイエンスを推し進め、品質管理、基準作りなどしっかり進めていただきたいと思います。産業界も協力させていただきます。
渡部副会長 これまでの5年間にさまざまな成果を上げてこられたことに敬意を表します。次の5年間は統合プロジェクト、つまり、世の中やイノベーション、社会課題を解決していくことで成果を残していく研究開発のあり方が大事だと考えます。本当に成果を出すときに、企業と医療機関、患者さんなどが加わり、出口にコミットする応用研究のあり方に、次の姿があるのではないでしょうか。
伊藤理事 患者の当事者性も考えて研究などを透明化してほしいと思います。失敗してもいいのです。何よりも、研究者や業界の方々が楽しそうに研究を進めていることが嬉しいのです。
本田次長 研究を国民が理解していくためには、PPIを何らかの形で具体的に進めて成功事例をつくり、それを広げていくことではないでしょうか。
また、研究では失敗例も有益情報と認めて資金配分や優先順位付け、研究評価などを行うことが大事だと思っています。
難波統括役 ありがとうございました。これでパネルディスカッションを終了させていただきます。
最終更新日 令和2年10月23日