AMEDシンポジウム2019開催レポート AMEDシンポジウム2019開催レポート(2日目):成果報告①

(抄録)

AMEDが果たす社会実装:がんゲノム医療をリードする 東大オンコパネルの開発

間野 博行氏(国立がん研究センター 研究所長/がんゲノム情報管理センター長)

がんゲノム医療とは

講演の様子

がんはゲノムの異常によって起きる病気です。ゲノム医療とは、そのゲノム異常を明らかにすることで患者さんに最適な薬剤を選ぶ医療といえます。がん研究が進んだことで多くの原因遺伝子が明らかになり、それぞれに対応した薬剤が開発されたことで、がんゲノム医療が現実のものになりました。

かつてのがん治療では、がんがどの臓器で発生したかという情報と、がんの細胞の形(線がん、扁平上皮がんなど)に応じて治療が行われてきました。ところが、ゲノム医療の登場によって原因遺伝子を調べて、発がん原因タンパクを狙った治療薬を患者さんに提供することが可能な時代になったわけです。

がんゲノム医療は、2017年の厚生労働省「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」の提言では、「がん患者の腫瘍部および正常部のゲノム情報を用いて治療の最適化・予後予測・発症予防を行う医療」と定義され、2019年6月から我が国でも保険診療下で提供されることになりました。

東大オンコパネル(TOP)の開発


図1 東大オンコパネル(TOP)
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世界でがんゲノム医療が大きな潮流となっている中で、私は東大病院で理想的ながんのゲノム医療体制をつくりたいと思い、東大先端科学技術研究センターの油谷浩幸教授と一緒に独自のがん遺伝子パネル検査「東大オンコパネル(Todai OncoPanel:TOP)」を開発しました(図1)。

TOP DNAパネルでは、遺伝子の点突然変異の検出、欠失・挿入、遺伝子増幅などを検出し、一方、TOP RNAパネルでは、融合遺伝子を高感度、高精度に検出します。またTOP RNAパネルは、例えば、オプジーボの有効性に関連するPD-L1遺伝子の発現量の測定や、HER2遺伝子の発現量の測定を行うことが可能です。このようにTOPパネルは、TOP DNAパネルとTOP RNAパネルの両方を使って患者さんの検体を解析するツインパネルシステムとなっています。

TOP RNAパネルには融合遺伝子を検出するジャンクション・キャプチャーというプローブを用意しましたが、実際には発現量も測定できないかと考え検討したところ、通常の方法でのmRNA測定量とTOP RNAパネルでのRNA測定量にきれいな相関が見られました。これにより、いくつかのがんについて遺伝子発現プロファイルを調べて原発臓器を推定できるようになり、原発不明がんの診断にも有用です。

さらに、マイクロサテライト不安定性(1~数塩基配列の繰り返し数が異常になっていること)の固形腫瘍の治療薬に、免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダが承認されていますが、そのマイクロサテライト不安定性を直接測定するようなプローブをTOP DNAパネルに組み込みダイレクトに測定することを可能にしました。


図2 がんゲノム医療に必要な要素
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このように臨床的有用性の高いパネルを構築できたと考えていますが、がんゲノム医療はそれだけでは成り立ちません。例えば、パネル検査で患者さんのゲノム変異がわかったときに、どのような保険収載薬が使えるのか、あるいは、保険収載薬で合うものがない場合はどの臨床試験に適合するのかなどの情報が必要になります。これらの情報があって初めて医療の現場で患者さんの薬剤選択が可能になるといえます(図2)。

そこで、全てのがん遺伝子に対して保険収載治療薬と適合臨床試験薬の情報を集めたデータベース“がんゲノム医療知識データベース”「T-CanBase」を構築し、TOPパネル解析結果に臨床的な意義付けを可能にしました。T-CanBaseでは、臨床的な重要性に応じて遺伝子変異を分類し、例えば、レベル1は、国内保険収載薬に対応する遺伝子変異、レベル2は、国内治験薬あるいは米国FDAでの承認薬に対応する遺伝子変異、レベル4では、論文で発がんに関して報告がある遺伝子変異という形に階層化して格納しています。東大病院ではTOPパネルやT-CanBaseを用いた臨床研究が2017年2月より行われました。

TOPパネル用いることで、診断が困難であったがん患者の確定診断や、あるいは適合薬剤がないがん患者に融合遺伝子を見つけることで薬剤が届けられたことなど、臨床で実際に役立つ経験をしました。特に肉腫のような鑑別診断が難しい疾患において、RNAパネルを用いた融合遺伝子の検出が極めて有用であると感じました。

さらに、TOPパネルの臨床研究の成果を受け、翌2018年10月にはPMDAに申請して先進医療Bの試験がスタートしました。間もなく、それも成功に終えると考えます。今後は、コニカミノルタ社とTOPパネルをさらに改良し実用化を目指して共同研究を進めています。

講演動画

当日行われた講演の様子を公開しました。以下のリンクをクリックすると、動画ページへ移動します。
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最終更新日 令和3年1月13日