AMEDシンポジウム2019開催レポート AMEDシンポジウム2019開催レポート(2日目):AMED成果報告②-1

(抄録)

ゲノム編集ツールCRISPR-Cas9の作動機構の解明と新規ツールの開発

西増 弘志氏(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻生物化学講座 准教授)

CRISPRとは

CRISPRは、ゲノム編集のために研究開発された技術ではなく、別分野で遺伝子配列を解析中に近傍で繰り返し配列が見られたことで偶然発見されました。この繰り返し配列は、長さの決まったrepeat配列、その隣に細菌に感染するウイルス(ファージ)由来のspacer配列によることから「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats:CRISPR」と命名されました。

細菌に感染したウイルスのDNAはspacer配列としてCRISPR機構に取り込まれ、そのDNAはRNAに転写されてCRISPR-RNAとなり、近傍にコードされたタンパク質と複合体をつくります。これらはCRISPR由来の(CRISPR-associated)Casタンパク質といい、CRISPRは外来の核酸に対する原核生物が持つ獲得免疫機構であることがわかってきました。

Cas9―世界初、DNAを切断する様子を捉える―

Casタンパク質の中で、現在、ゲノム編集に用いられているのがCas9タンパク質です。2013年にその技術が報告されて以来、ゲノム編集ツールとして利用されています。Cas9タンパク質はRNAと結合して相補的な二本鎖を見つけ出して切断しますが、我々はこの仕組みを解明するため、結晶構造解析を用いて分子の形を明らかにしたいと考えました。

試行錯誤の末、Cas9タンパク質とRNA、20塩基のガイド配列と相補的なDNAを結晶化し、分子構造を明らかにしました。

Cas9タンパク質は複雑な構造をしていますが、主に核酸を認識するらせん構造からなるREC(recognition)部分と、DNAを切断するヌクレアーゼドメイン(HNHとRuvC)部分の2つに分けられます。生化学的な解析から、RuvCドメインはRNAと対合しないDNA鎖を、HNHドメインはRNAと対合するDNA鎖を実際に切断することが明らかになっていましたが、立体構造はその結果を説明するものでした。


図1 Cas9によるDNA分断のメカニズム
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C末端の部分はCas9に特徴的な立体構造を持ち、DNAの認識に適した位置にあることから解析を進め、PAM(Protospacer adjacent motif)を認識するドメイン(PIドメイン)がGG配列を認識することを確認しました。この構造解析から、Cas9がRNAと共同してDNAを見つけ出して切断するメカニズムの大枠が確認できました。

次に、HNHドメインの動きを実際に確認するため、金沢大学生物物理学研究室の古寺哲幸准教授、柴田幹大准教授らと共同で、高速原子間力顕微鏡(高速AFM:1分子を溶液中でリアルタイム観察する方法)を用いた観察を行いました。この結果、Cas9、RNAの複合体を1分子として確認でき、DNAを切断する作動機構を世界で初めて捉えることに成功しました(図1)。

Cas9を改変した新規の転写活性化ツールを開発

この基本的な作動機構や海外の研究グループが報告したPAM配列、GGを含んだCas9複合体の結晶構造を参考にし、PAMを含むDNA近傍にあるアミノ酸残基を変えた変異体をデザインしてタンパク質を精製し、そのDNAの切断活性を観察しました。


図2 標的配列へのゲノム編集適用範囲の拡張
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その結果、ワルイドタイプ(wild-type SpCas9)は切断活性が見られ、活性に必須のRをAに変えたもの(R1335A)は全く切断が見られませんでした。一方、変異を1つ加えたものも弱いですが切断を確認することができました。これらを組み合わせた変異体は、ワイルドタイプと同じくらいの切断活性を示すこと確認しましたが、ワイルドタイプに比べると、切断スピードが遅いなどゲノム編集には不十分であると考え、糖骨格と相互作用する疏水的なアミノ酸を導入し、最終的に7つの変異を導入したものが高い活性を持つことを突き止めました。

次に、GGではなく、GA、GT、GCなど異なった配列をPAMとして持つDNAに対して活性を見たところ、我々の変異体ではGGのみならず、GA、GT、GCでゲノム編集を起こすことを確認できました。

これらの研究結果からワイルドタイプは、隣にGGがないと結合してゲノム編集を起こさないのですが、我々の変異体ではGGだけでなく、GA、GT、GCを持つ標的配列にゲノム編集ができることがわかり、ゲノム編集の適用範囲の拡張に成功したと考えます(図2)。

講演動画

当日行われた講演の様子を公開しました。以下のリンクをクリックすると、動画ページへ移動します。
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最終更新日 令和3年1月13日