AMEDシンポジウム2019開催レポート AMEDシンポジウム2019開催レポート(2日目):AMED成果報告②-2

(抄録)

日本発!心臓病患者の未来を守る神経刺激カテーテルの開発

朔 啓太氏(九州大学大学院医学研究院 循環器内科 特任講師)

神経刺激技術によって心筋梗塞における心筋のダメージを減らす装置

講演の様子

心不全は一度発症すると一部の進行ガンと同程度に予後不良な疾患です。また、日本を含む先進諸国では、心不全患者が急増する「心不全パンデミック」の到来が大きな社会・健康問題となっています。心不全の主な原因の一つが心筋梗塞であり、虚血(組織に対する血液供給が不十分になること)による心筋ダメージはその後の心不全を引き起こします。現在の心筋梗塞治療は、カテーテルによる再灌流療法(詰まった血管をバルーンなどで広げたり、血栓を溶かして再開通させる治療)が最優先です。さまざまな研究者が薬物やその他の治療を再灌流療法に追加してさらに心筋ダメージを低下させる治療を提案してきましたが、いずれも標準的な治療戦略として確立していません。

私は大学院での研究生活の中で“自律神経による循環制御”を研究していたことから、自律神経が生命の恒常性を保つ上でいかに重要であるかを認識しておりました。特に、迷走神経はさまざまな生理活性を有することが知られ、心筋梗塞においても、虚血時や再灌流時に迷走神経刺激を行うことで著明に心筋ダメージを低下させることが動物実験で明らかになっていました。以前より迷走神経はカテーテル技術で刺激できることが報告されておりましたので、我々においても動物実験で心筋梗塞急性期に上大静脈という血管内から迷走神経に対して電気刺激を加えたところ、心臓ダメージが著明に小さくなり、その後の心不全も予防できることが確認できました。


図説:開発中の迷走神経刺激カテーテル装置
上大静脈から迷走神経の電気刺激を比較的低侵襲かつ簡便な手技で行うことができる。
画像をクリックするとPDFが開きます。

この技術を実現できるカテーテルを作ろうと思ったのですが、私にはノウハウがありませんでした。自分なりに多くの人に出会い、議論を重ね、医療機器ベンチャーのニューロシューティカルズ社と共同開発を進めることができました。また、AMED先端計測プロジェクトに採択していただき、多くのサポートの元でさらに開発を加速化することができました。

我々は現在、血管内から迷走神経を刺激できるバスケットカテーテルを開発し、臨床研究を考えるところまで到達しました(図1)。多くの方々とのご縁を大切にし、いただいたご支援に答えられるように、そしてなにより患者さんにつながる医療機器開発に発展できるようにこれからも努力していく所存です。

関連情報

講演動画

当日行われた講演の様子を公開しました。以下のリンクをクリックすると、動画ページへ移動します。
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最終更新日 令和3年1月13日