AMEDシンポジウム2019開催レポート AMEDシンポジウム2019開催レポート(2日目):AMED成果報告④

(抄録)

エピジェネティクス創薬の基盤となるクロマチン構造研究

胡桃坂 仁志氏(東京大学定量生命科学研究所 教授)
事業説明:中村 春木氏(AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 PS/国立遺伝学研究所)

エピジェネティクスとは

講演の様子

体をつくる設計図はDNAと呼ばれ、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類のヌクレオチド(文字)から構成されます。受精卵は分裂を繰り返し成長しますが、脳や神経、肺、胃などの組織のDNAは同一であり、全ての細胞が同じDNAを持っているのにさまざまな組織ができるのは、設計図として使われているDNAの領域が変わるためです。DNAの中に、読み取られるところと読み取られないところがあり、それを決めている目印があり、それはクロマチンと呼ばれるDNAが高次に折り畳まれたDNAとタンパク質の複合体であることがわかりました。

エピジェネティクスとは、ジェネティクス(遺伝学)という言葉と、エピ(後天的に構成的につけ加えられた情報によって決まる)という言葉でできており、日本語では後成遺伝学といわれることもあります。また、DNA配列以外の遺伝情報で細胞の運命を決定するもので、具体的にいうとクロマチンの3次構造を解明する研究になります。

クロマチンの高次構造


図1 クロマチンを構成する階層構造
画像をクリックするとPDFが開きます。

1つの細胞核に入っているDNAの長さは、1対が約1mであり、2対で約2mになり、わずか10μm程度の核の中に2mのDNAが折り畳まれて入っていることになります。DNAは生物の設計図なので、きちんと読み取れるように折り畳まれている必要があります。その折り畳まれ方には規則があり、DNAはヒストンといわれるタンパク質に巻き取られながら折り畳まれています。DNAがヒストンに巻き付いたものをヌクレオソームと呼び、ヌクレオソームの集合体をクロマチンといいます(図1)。

DNAがヒストンに巻き取られた状態では、DNAの文字列を読み取ることができません。読み取るためには、DNAがほどかれてRNAポリメラーゼにより読み取りができる状態(オンの状態)になる必要があります。読み取られない状態(オフの状態)とオンの状態になるにはDNAの折り畳み方に違いがあり、それによって制御されていることがわかりました。

クロマチンにおけるヒストン異常やヒストン発現量異常などのエピゲノムの破綻により、クロマチンの異常が起こると病気の原因になることがわかり、がんや精神疾患、感染症、メタボリック・シンドロームもクロマチンの構造異常によって、引き起こされているということがわかってきました。

ヌクレオソームは1974年に発見されたものの、その後40年以上、RNAポリメラーゼがどのようにしてヒストンに巻きついたDNAを読み取っているかはわかりませんでした。そこで我々がRNAポリメラーゼⅡを用いてヌクレオソームの読み取り方について研究した結果、2018年にRNAポリメラーゼはヌクレオソームに巻き付いたDNAを徐々に剥がしながら、ヒストンの周りを回わってDNAの塩基を読み取ることがわかりました。

クロマチンの立体構造の解明、実態を解明することにより、クロマチン異常が原因となっている病気がわかるようになります。正常であればきちんとDNAは折り畳まれているものが、折り畳まれ方が悪いために病気になっていると原因がわかっていれば、新しい治療法も提案できるようになり、細胞機能制御の技術革新につながると考えられます。医学、薬学はもとより、農学、工学、品種改良、バイオセンサーなどにも、将来的にはつながっていくと考えています。

また、異常細胞でクロマチンの異常部分やその異常な形態がわかれば、それを修復する酵素を与えることで、クロマチンを正常に戻し疾患を改善していくことが可能になると考えます。

このようにして、今後もAMEDでの基礎研究が応用研究へとつながっていくことを期待しています。

講演動画

当日行われた講演の様子を公開しました。以下のリンクをクリックすると、動画ページへ移動します。
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最終更新日 令和3年1月13日