AMEDシンポジウム2019開催レポート AMEDシンポジウム2019開催レポート(2日目):AMED成果報告⑤

(抄録)

IRUD―未診断疾患から未来へのかけ橋―

水澤 英洋氏(国立精神・神経医療研究センター 理事長)

IRUDの研究体制

講演の様子

難病の多くは、遺伝的な背景がある遺伝性疾患ではないかといわれており、現在、その数は9,000種類を超えています。そのうち6,000種類程度だけがわかっており、3,000種類以上はいまだ病因遺伝子がわかっていません。AMEDの調査では、3万7,000件を超えるニーズがあるということがわかりました。

我が国ではIRUD(未診断疾患イニシアチブ)を開始しており、未診断疾患患者さんの包括的診断体制を全国に構築し、次世代シークエンサーを含めた革新的検査を利活用して、国際連携が可能な臨床情報のデータベースを確立することに取り組んでいます。

IRUDの研究体制には、診断連携と解析コンソーシアム、データセンターの3つの柱があり、その全体をまとめるのがIRUD推進会議、それを進めているのがコーディネーティングセンターになります(図1)。


図1 IRUDの研究体制
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診断連携については37の拠点病院を整備してそこに診断委員会を置き、症例が適切かどうかを判断していただき5施設の解析センターで解析されて結果がフィードバックされる仕組みになっています。

IRUDの診断体制

診断困難な患者さんについては、かかりつけ医を通して、拠点病院の診断委員会で検討され、IRUDにエントリー、検査を追加、別の研究班を紹介などの方針が決まります。解析の結果は診断委員会に報告され,事後検討を受けた後に患者さんにフィードバックされるシステムです。拠点病院は全国に37カ所、それを補う協力病院あるいは高度協力病院を合わせると、490もの病院が参加し、これらをネットワーク化したシステムをつくることに成功しました。

IRUDの成果

拠点病院からは、2019年9月末時点で13,000症例・4,658家系が登録され、3,634症例については解析が済んでいます。そのうち、1,593症例(43.3%)という高い診断率が示すように、たくさんの症例で診断を確定することができました。なお、診断が付いた35症例は、新規疾患ということがわかっています。

新規疾患の内訳は、全く新しい新規の疾患が24遺伝子。新しい表現型を追加できたものが11遺伝子となります。

しかしながら、約2,000症例(60%)は未診断のままですので、この解明を進めることはとても重要であり、AMEDではこれに対応するため、IRUD-Beyondという取り組みが始まっています。


図2 IRUD-Exchangeによるデータシェアリング
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この他に、未診断にとどまる疾患についてのアプローチとして、データシェアリングがあります。1家系では確定できませんが、2家系以上が合致すると確定できる仕組みです。データシェアリングは当初から非常に重要であると位置付けており、データセンターに、患者さんの情報を最初から標準化、高度化された形で表示しています。これを患者さんの個人情報を消去した状況で、全体でシェアすることができるIRUD-Exchange(図2)、さらに、国際的なコンソーシアムともMatch Maker Exchangeで共有することで、国際連携も可能になっています。

実際に、米国やカナダ、欧州各国、オーストラリアなどと連携や情報交換ができるようになっています。また、IRUD-Exchangeへの登録は、2019年12月1日現在で3,488症例あり、先ほどの解析済み家系が3,634症例であることからから約96%が共有されていることになります。

おわりに

IRUDでは、希少・未診断疾患の患者さんに対して、体系的に診断する医療システム、臨床情報を収集・蓄積し、共有するシステムを確立できたと考えています。未だ同定されていない疾患原因遺伝子は、まだまだ多いですが着実に解明が進んでいます。これらは最も確実かつ強力な病原分子を規定しており、これらの全容解明とそれを活用したオミックス解析が極めて重要であると考えます。それにより、コモンな疾患にも共通する病的な代謝経路、分子ネットワークの解明が大きく進展すると期待しています。

講演動画

当日行われた講演の様子を公開しました。以下のリンクをクリックすると、動画ページへ移動します。
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最終更新日 令和2年10月23日