新興・再興感染症制御プロジェクト 感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)における令和元年度課題評価結果について(事後評価)

令和元年度「感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)」の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

事後評価

1.事後評価の趣旨

 事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
 感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)(公募事業)(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:令和元年11月1日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発達成状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 事業で定める事項
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

各課題とも日本人研究者が感染症流行地に常駐して研究するメリットを十分に活用し、研究拠点を設置しているアジア・アフリカの患者検体や臨床データ、各種情報等を収集、解析して研究成果を上げており、総じて高水準の評価となった。
J-GRIDは、第1期に整備された研究拠点では15年目、短い拠点でも10年、5年を経過して、現地国との強固な信頼関係を構築している。各研究拠点の特色がでてくる一方で、研究拠点間での交流や情報交換も始まっており、今後は研究拠点間の連携による地域横断的な視点や研究によって世界レベルの成果を狙うことができる。
また、研究活動と併せて、今後の感染症研究を担う人材を育成するとともに、現地国の人材育成や公衆衛生向上にも大きく貢献しており、現地国側から高い評価を得ている。

7.課題ごとの評価要旨

  • ザンビア拠点では、人獣共通感染症病原体の探索を進め、人に病原性を持つ新種のボレリアをコウモリから分離する等、野生動物における病原体の探索と解析に大きな成果をあげた。研究の枠組みは、現地の研究者や厚生行政当局者と連携して運用されており、アフリカでの病原体サーベイランスのモデルとして周辺国への波及が期待できる。
  • 小児下痢症と重症呼吸器感染症の患者が多いフィリピンで、レベルの高いコホート研究を展開し、病原体の変異と流行の関係や不顕性感染の実態解明などに成果をあげた。また、繰り返し感染は、調査地域で流行している異なる遺伝子型によるもので、獲得免疫の交差性の低さや持続期間の短さが示唆され、コミュニティ内でウイルスが維持される機構が明らかになった。
  • ミャンマー拠点では、インフルエンザ、小児の重症肺炎と下痢症を対象に、疫学研究、重症化に関わる宿主因子や薬剤耐性の研究を進め、同時に拠点の研究機能の充実を図った。これまで感染症情報収集の空白地域であったミャンマーに拠点を設置した意義は大きい。
  • 中国拠点では、ウイルス感染の初期過程であるエンベロープと細胞膜融合の定量的な測定系を構築し、膜融合阻害剤の探索を進めた。膵炎治療薬のナファモスタットがMERS コロナウイルスの膜融合を阻害することを見出し、さらにSARS-Cov-2の膜融合についても同様に阻害することを見出した。治療薬候補として期待され、特定臨床研究が実施されている。ウイルス感染に不可欠な膜融合の定量系は、今後も阻害剤の探索に幅広く役立つことが期待される。
  • ガーナ拠点(我が国と関係の深い野口記念医学研究所内に設置)では、デングウイルス、チクングニアウイルス感染状況の把握と臨床分離株の解析、ロタウイルスワクチン導入後に下痢患者から分離されるウイルスの調査並びに多剤耐性菌の調査において成果を上げた。
  • タイ王国に設置された2拠点では、デング熱、チクングニア熱など流行地でしかできない研究を重点的に進めた。得られた検体や情報を活用して、理化学研究所とのデングウイルス増殖阻害剤の開発、感染症研究所とのデング熱の抗体依存性感染増強の分子機構研究など、プログラムの趣旨に沿った活動が展開された。デングウイルスやチクングニアウイルスの検出キットを作製・改良し、臨床検体による実証試験でも良好な成績を得て、社会実装に向かっている。疫学研究に導入すれば、情報の精度を飛躍的に向上させることができる。
  • インドネシア拠点では、高病原性トリインフルエンザウイルスのヒト感染調査、デングウイルスの分離と治療抗体の作製、多剤耐性菌調査、デング熱媒介蚊の殺虫剤抵抗性調査で、成果を上げた。高病原性トリインフルエンザウイルスが蔓延状態にある生鳥市場で従業員の血清を調査し、H5N1ウイルスが大部分の従業員に不顕性感染したことを明らかにした。
  • 下痢症が常時流行しており、重症下痢症の研究に最も適した地域と言えるインド国コルカタ市の研究拠点では、下痢症原性微生物の変異と病原性変化及び薬剤耐性に関する研究、コレラ菌の環境適応と伝播機構の研究、経口赤痢菌ワクチンの開発に成果をあげた。コルカタ市での調査でコレラ菌の無症状保菌者を初めて発見し、コレラ流行との関連を検討している。
  • ベトナムハノイ市の研究拠点では、輸入感染症として我が国に侵入・定着リスクのあるデングウイルス・ジカウイルスの研究を進めた。ベトナム南部地域における妊婦のジカウイルス感染を明らかにし、ベトナム独自のウイルスが維持されている状況を示した。多剤耐性菌、結核では、流行地で採取した検体の一部を国内の研究施設と連携しながら解析して成果を上げた。
 

最終更新日 令和3年3月23日