プレスリリース 早期膵臓がんの血中バイオマーカー発見―既存マーカーとの組み合わせで診断の性能向上が可能に―
プレスリリース
国立大学法人熊本大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
概要
本研究の成果は、平成28年8月31日に「PLOS ONE」に掲載されました。
研究の背景
研究の内容
まず、膵臓がん組織で活性化していると報告されている260個の遺伝子の内、生物学的機能が明らかであり、かつ抗体が手に入る130個のタンパク質について、抗体プロテオミクスの一種である「逆相タンパク質アレイ*1」を用いて健常者および膵臓がん患者の血液を用いて比較を行いました。その結果、23個のタンパク質が健常者に比べて膵臓がん患者の血中で顕著に変化していることを見出しました。
さらに、これらの膵臓がんバイオマーカー候補を精度よく評価するために、質量分析装置を用いたプロテオミクスによる解析を行いました。この際、数多くの臨床検体の効率的な解析を可能とするため、自動前処理ロボット、高耐圧液体クロマトグラフィーおよび自動解析ソフトを用いた技術を独自開発しました。従来のシステムでは1週間に80サンプル程度の解析しかできませんでしたが、開発したシステムでは1週間におよそ1000サンプルを精度よく解析することができます(図2)。
本技術を用いて健常者および早期膵臓がん患者の血中のタンパク質を比較した結果、IGFBP2およびそのファミリーであるIGFBP3の量が、膵臓がん患者で変化していることを明らかにしました(図3)。また、既存のマーカーであるCA19-9に陰性を示す早期膵臓がん患者15例中、IGFBP2、IGFBP3では12例(80%)を診断することができ、CA19-9で検出できなかった早期の患者さんのスクリーニングによるがんの検出が実現すると期待できます。さらに、IGFBP2は、CA19-9では陽性を示さない膵管内乳頭粘液性腫瘍といった膵臓がんのリスク疾患にも陽性を示していました。
本解析では他のがん種も含め600例近い検体の解析を行い、胃がん、胆道がん、肝細胞がん、大腸がん、十二指腸がんなどのスクリーニングにもIGFBP2とIGFBP3が有効である可能性を明らかにしました。
本研究の成果は、難治性のがんである膵臓がんの早期発見を実現することで、予後の改善に貢献することが期待できます。また、早期膵臓がんのスクリーニングにはIGFBP2、IGFBP3とCA19-9の組み合わせによる診断が必要ですが、IGFBP2、IGFBP3のみの検査であれば1滴の血液から診断することが可能であり、被験者の検査による負担を軽減できる可能性があります。さらには、研究過程において今回開発した新たな質量分析システムも、今後臨床現場などにおいて多量の検体の計測診断を可能なものに発展することが期待されます。
用語解説
- *1 逆相タンパク質アレイ:
- スライド上に血液を滴下し、特異的抗体で血液中のタンパク質を定量的に比較できる技術。
論文名
Identification of IGFBP2 and IGFBP3 as Compensatory Biomarkers for CA19-9 in Early-Stage Pancreatic Cancer Using a Combination of Antibody-based and LC-MS/MS-based Proteomics
DOI:10.1371/journal.pone.0161009
URL:http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0161009
著者名・所属
Toshihiro Yoneyama1, Sumio Ohtsuki2, 4, Kazufumi Honda3, 4, Makoto Kobayashi3, Motoki Iwasaki5, Yasuo Uchida1, Takuji Okusaka6, Shoji Nakamori7, Masashi Shimahara8, Takaaki Ueno8, Akihiko Tsuchida9, Naohiro Sata10, Tatsuya Ioka11, Yohichi Yasunami12, Tomoo Kosuge13, Takashi Kaneda14 , Takao Kato15, Kazuhiro Yagihara16, Shigeyuki Fujita17, Wilber Huang18, Tesshi Yamada3, Masanori Tachikawa1 and Tetsuya Terasaki1
- Division of Membrane Transport and Drug Targeting, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Tohoku University, Sendai, Japan
- Department of Pharmaceutical Microbiology, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University, Kumamoto, Japan
- Division of Chemotherapy and Clinical Research, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan
- Japan Agency for Medical Research and Development (AMED) CREST, Tokyo, Japan
- Division of Epidemiology, Research Center for Cancer Prevention and Screening, National Cancer Center, Tokyo, Japan
- Department of Hepatobiliary and Pancreatic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
- Departments of Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery, Osaka National Hospital, National Hospital Organization, Osaka, Japan
- Department of Oral Surgery, Osaka Medical College, Osaka, Japan
- Department of Gastrointestinal and Pediatric Surgery, Tokyo Medical University, Tokyo, Japan
- Department of Surgery, Jichi Medical University, Tochigi, Japan
- Department of Hepatobiliary and Pancreatic Oncology, Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Diseases, Osaka, Japan
- Islet Institute, Fukuoka University, Fukuoka, Japan
- Hepatobiliary and Pancreatic Surgery Division, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
- Department of Radiology, Nihon University School of Dentistry at Matsudo, Chiba, Japan
- Department of Oral Implant, Nihon University School of Dentistry at Matsudo, Chiba, Japan
- Department of Oral Surgery, Saitama Cancer Center, Saitama, Japan
- Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Wakayama Medical University, Wakayama, Japan
- Abnova, Taipei City, Taiwan
掲載雑誌
PLOS ONE
お問い合わせ先
本件に関するお問い合わせ先
熊本大学大学院生命科学研究部
担当:大槻純男
TEL:096-371-4323
E-mail:sohtsuki“AT”kumamoto-u.ac.jp
事業に関するお問い合わせ先
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目7番1号
TEL:03-6870-2221
E-mail:cancer“AT”amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成28年9月21日
最終更新日 平成28年9月21日