プレスリリース 「潰瘍性大腸炎の体外モデル作成に成功」―病態リセットを標的とした創薬に期待―

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • マウス大腸上皮細胞初代培養への炎症刺激により、体外腸炎モデルを作成しました。
  • 一年以上の炎症刺激の結果、大腸上皮細胞の慢性変化・発がん過程の一部を再現しました。
  • 潰瘍性大腸炎の病態リセットを標的とした新規治療法開発への応用が期待できます。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野の渡邉守教授と同医学部附属病院消化器内科の土屋輝一郎准教授・日比谷秀爾医師の研究グループは、金沢大学がん進展制御研究所との共同研究で、潰瘍性大腸炎の体外モデル作成に成功しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金(基盤研究S 15H04808, 基盤研究B 26221307)ならびに日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業・革新的がん医療実用化研究事業の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Crohn’s and Colitisに、2016年11月10日午前9時(英国時間)にオンライン版で発表されます。

研究の背景

炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎は本邦で患者が増加している難治性疾患(指定難病)です。数十年にわたる罹患期間により病状悪化や大腸がんを発症するため、病状を一時的に改善させる治療薬だけでなく、病態を完全にリセットする治療法の開発が望まれています(図1)。研究グループはこれまでに、腸上皮細胞の形質転換が大腸の機能低下や発がんの原因になることを明らかとしてきました[1], [2]。しかし、長期間炎症に暴露される大腸上皮細胞への影響はこれまで不明であり、慢性腸炎を模倣したモデルはありませんでした。

説明図・1枚目

研究成果の概要

研究グループで独自に開発したマウス大腸上皮細胞初代培養[3]を発展させ、1年以上にわたる炎症刺激を大腸上皮細胞に行うことに成功しました。長期炎症により大腸上皮細胞で誘導される遺伝子を初めて明らかにし、それは潰瘍性大腸炎患者で増加する遺伝子と一致していました。また、長期炎症後に炎症刺激を除去しても大腸上皮細胞の炎症応答がリセットせず、強い酸化ストレス状態であることを発見しました。以上より、この長期炎症モデルは潰瘍性大腸炎患者の臨床経過を再現したモデルであり、病状再発・発がんの原因となる大腸上皮細胞の形質転換過程を初めて明らかとしました(図2)。
説明図・2枚目

研究成果の意義

今回初めて体外での潰瘍性大腸炎モデルの作成に成功し、潰瘍性大腸炎における大腸上皮細胞の病態、発がん過程の一部を明らかとしました。このモデルを用いて潰瘍性大腸炎の病態をリセットする創薬のスクリーニングに有用であり、革新的な治療法の開発が期待されます。さらに現在、ヒト大腸上皮細胞でも潰瘍性大腸炎モデルの作成に取り組んでおり、将来的には各患者の体外モデル構築による治療効果予測や再発予測・発がんリスク予測を可能にすることが期待できるものと考えられます。

[1] Okamoto R, Tsuchiya K, Nemoto Y, et al. Requirement of Notch activation during regeneration of the intestinal epithelia. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2009; 296: G23-35.

[2] Zheng X, Tsuchiya K, Okamoto R, et al. Suppression of hath1 gene expression directly regulated by hes1 via notch signaling is associated with goblet cell depletion in ulcerative colitis. Inflamm Bowel Dis. 2011; 17: 2251-60.

[3] Yui S, Nakamura T, Sato T, et al. Functional engraftment of colon epithelium expanded in vitro from a single adult Lgr5⁺ stem cell. Nat Med. 2012; 18: 618-23.

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掲載日 平成28年11月10日

最終更新日 平成28年11月10日