プレスリリース 「肝がん変異遺伝子ARID2による発がんメカニズムを解明」―肝がんのプレシジョン・メディシンへ応用が期待―

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 近年 肝がん特異的変異遺伝子としてARID2が同定されていましたが、そのメカニズムは不明なままでした。
  • 本研究では、ARID2はがん抑制遺伝子であり、DNA損傷・修復応答と高頻度遺伝子変異に関与することを世界で初めて明らかにしました。
  • 本研究の成果によって、肝がんのプレシジョン・メディシンへの応用が期待できます。

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 分子腫瘍医学分野の田中真二教授、島田周助教、大庭篤志大学院生らの研究グループは、同システム発生・再生医学分野の浅原弘嗣教授、同口腔放射線腫瘍学分野の三浦雅彦教授、同肝胆膵外科学分野の田邉稔教授との共同研究で、肝がん特異的変異遺伝子ARID2がDNA損傷・修復応答と高頻度遺伝子変異に関与することを世界で初めて明らかにしました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム」(P-DIRECT)および「次世代がん医療創生研究事業」(P-CREATE)、高松宮妃癌研究基金研究助成金ならびに文部科学省科学研究費補助金のもとにおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Hepatology (ジャーナル オブ へパトロジー)に2017年2月24日(英国時間)にオンライン版で発表されました。

研究の背景

肝がんは世界で3番目に死亡率の高いがんであり、発がんのメカニズムは複雑で未だ明らかではありません。近年のがんゲノム研究の結果、C型ウイルス肝がんに特異的な変異遺伝子としてARID2が報告され、その後の大規模解析によってARID2を含むSWI/SNF複合体は約20%の肝がんに変異を認めることが判りましたが、その分子メカニズムは不明なままでした。本研究では肝がんにおけるARID2異常の意義を明らかにするため、ゲノム編集法によりヒト肝がん細胞のARID2遺伝子を特異的に欠失させて、新しいがん化メカニズムを発見しました。

新しいがん化メカニズム

研究成果の概要

本研究チームは、ヒト肝がん細胞のARID2遺伝子をゲノム編集法により欠失させた結果、高い腫瘍形成能を獲得することを見出し、ARID2はがん抑制遺伝子であることを証明しました。遺伝子発現解析ではARID2欠失肝がん細胞は紫外線(UV)によるDNA損傷・修復応答に脆弱性を認め、実際にUV照射をするとARID2欠失肝癌細胞はUV感受性が高いことが判りました。さらにARID2欠失肝がん細胞はDNA損傷・修復応答の異常によってベンゾピレン・塩化鉄といった肝発がん物質に対する感受性が亢進し、ARID2変異がんは体細胞変異数が多くなることをパブリックデータの解析で示しました。これらの結果からARID2変異によってDNA損傷・修復応答の異常をきたし、高頻度遺伝子変異(hypermutation)を起こしている可能性が示唆されました。同じファミリーのARID1Aでも同様のDNA損傷・修復応答の関与を認めたため、これらのメカニズムはSWI/SNF複合体に共通する可能性があります。

研究成果の意義

本研究により、長らく謎であった肝がんのARID2変異メカニズムの一端が世界で初めて明らかになりました。最近、多くのがんで免疫チェックポイント阻害剤が脚光を浴びていますが、高頻度遺伝子変異がんは免疫チェックポイント阻害剤のターゲットとして注目されており、肝がんのプレシジョン・メディシンへの展開が示唆されます。今回の成果は肝がんの病態解明への重要な発見であり、同時に他のがんにおける新規治療開発の研究にも応用可能です。今後、様々な疾患におけるSWI/SNF複合体の役割が解明されていくものと期待されます。

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
分子腫瘍医学分野 田中 真二(タナカ シンジ)
TEL:03-5803-5184 FAX:03-5803-0125
E-mail:tanaka.monc“AT”tmd.ac.jp

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E-mail:cancer“AT”amed.go.jp

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掲載日 平成29年2月27日

最終更新日 平成29年2月27日