プレスリリース がんが生体内で治療抵抗性を獲得するメカニズムを解明―薬剤耐性肝がんの新たな治療法開発への期待―

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 抗血管新生剤によるがん治療は、初期には有効であっても、やがて治療抵抗性を獲得し 再発・進行することが問題となっています。
  • 本研究では、生体内で肝がん薬剤耐性株を作成することに成功し、抗血管新生剤の治療抵抗性にエピゲノム変化が関与することを世界で初めて明らかにしました。
  • 本研究の成果により、肝がんの薬剤耐性を克服する新規治療法開発への応用が期待されます。

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 分子腫瘍医学分野の田中真二教授、島田周助教、秋山好光講師、大畠慶映大学院生の研究グループは、同肝胆膵外科学分野の田邉稔教授との共同研究で、肝細胞がん(肝がん)において生体内で抗血管新生剤の耐性株を作成することに成功し、治療抵抗性を獲得する分子メカニズムを世界で初めて明らかにしました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム」(P-DIRECT)および「次世代がん医療創生研究事業」(P-CREATE)、高松宮妃癌研究基金研究助成金ならびに文部科学省科学研究費補助金のもとにおこなわれたもので、その研究成果は、米国癌学会雑誌Molecular Cancer Therapeutics(モレキュラー キャンサー セラピューティクス)に2017年2月28日午前10時(米国東部時間)にオンライン版で発表されます。
 

成果概要図

研究の背景

抗血管新生療法は、肝がんを含む多くのがん治療に使用されていますが、初期には有効であっても繰り返し治療を続けると、やがて治療抵抗性を獲得し、かえって悪性度の高いがんへ変貌することさえあります。この問題を解決するために、本研究ではヒト肝がん細胞を免疫不全マウスに皮下移植して抗血管新生剤を投与し継代していくことで、薬剤耐性株を樹立することに成功しました。その薬剤耐性株を解析した結果、生体内で治療抵抗性を獲得するメカニズムを解明しました。

研究成果の概要

研究グループは、抗血管新生剤の長期的な治療により、生体内でがん細胞遺伝子のエピゲノム変化(プロモーター領域のDNA脱メチル化およびヒストン活性化修飾)が起こり、薬剤耐性化を起こすことをつきとめました。その結果、がん幹細胞化に関与するthymosin beta 4(Tβ4)の遺伝子発現が誘導され、治療抵抗性を獲得することが示唆されました。実際の肝がん患者でもTβ4陽性の症例では、抗血管新生剤が効きにくいことが確認されており、感受性バイオマーカーの1つであることが判りました。
 

研究概要図

研究成果の意義

本研究は、臨床の治療に近い状態を想定し、長期間の反復薬剤投与によって抗血管新生治療耐性の肝がんモデル化に成功し、生体内のエピゲノム変化によって薬剤耐性を獲得することを証明しました。今回の成果は、がん治療抵抗性メカニズムを解明する重要な発見であり、エピゲノム変化の制御によって薬剤耐性化を阻止する新たな治療法の開発が期待されます。

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掲載日 平成29年3月1日

最終更新日 平成29年3月1日