プレスリリース FGF21が視床下部室傍核Nesfatin-1ニューロンを活性化することで高血糖時に選択的に摂食を抑制することを発見

プレスリリース

自治医科大学 医学部
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

概要

内分泌ホルモン様のFGFs(繊維芽細胞増殖因子)の一つであるFGF21は、膵β細胞および脂肪細胞を標的とした抗肥満作用があり、臨床応用が試みられています。FGF21は血液脳関門を通過し脳内へ移行する事、FGF21受容体であるβ-klothoは摂食中枢である室傍核にも発現している事が報告されていましたが、FGF21の摂食調節作用はこれまで明らかになっていませんでした。

私たちは本研究で、FGF21の標的は室傍核のNesfatin-1ニューロンであり、その活性化が摂食抑制に繋がることを明らかにしました。さらに、FGF21は血糖値が上昇している時のみ摂食抑制を引き起こし、低血糖時の摂食には影響しませんでした。FGF21は血糖上昇時に、摂食を抑え過血糖を抑制すると考えられます。従来の糖尿病薬では、治療過程で重度の低血糖を発症する恐れがありましたが、FGF21を糖尿病治療へと臨床応用することで、こうした懸念がいらない画期的な治療法につながると考えられます。

本研究成果は、日本時間2017年4月4日午後6時解禁(英国時間4月4日午前10時)に英国学術雑誌「ScientificReports」に掲載予定です。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)の研究開発領域「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」(研究開発総括:永井 良三)における研究開発課題「リン恒常性を維持する臓器間ネットワークとその破綻がもたらす病態の解明」(研究開発代表者:黒尾 誠)の一環で行われました。また科学研究費補助金などの助成によって行われました。

本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されています。

1.研究背景

FGF(繊維芽細胞増殖因子)の中には、本来の細胞増殖因子としての役割以外に内分泌ホルモン様の作用をする一群があり、その一つにFGF21があります。FGF21は、膵β細胞および脂肪細胞を標的とした抗肥満・抗糖尿病作用があり、臨床応用が試みられています。FGF21は血液脳関門を通過し脳内へ移行する事、FGF21受容体であるβ-klothoは視床下部視交叉上核および摂食中枢である室傍核にも発現している事が報告されていましたが、FGF21の摂食調節作用はこれまで明らかになっていませんでした。そこで、本研究はマウスを用いてFGF21の摂食調節作用を調べました。

2.研究内容

FGF21をマウスの側脳室内に投与したところ、3時間後から24時間後までの摂餌量が有意に低下しました。そこで、FGF21標的神経核を調べるために、FGF21脳室内投与後に神経活性化マーカーのc-Fosの発現を調べると、室傍核で増加していました。この時の室傍核の神経ペプチドのmRNA発現を調べると、Nesfatin-1のmRNA発現が増加していました。さらに、FGF21の摂食抑制作用は、室傍核特異的Nesfatin-1ノックアウトマウスでは消失していました。このことから、FGF21は室傍核Nesfatin-1ニューロンを活性化し、摂食を抑制する事が明らかになりました。

さらに、FGF21はマウスから単離した室傍核Nesfatin-1ニューロンに直接作用し、高グルコース濃度存在下でのみ、神経活動が増加しました。同様に、FGF21はマウスの高血糖時に摂食抑制作用を発揮しましたが、絶食時に血糖が低下している時には作用がありませんでした。以上の結果から、FGF21は血糖上昇時に、食欲を抑え過血糖を抑制すると考えられます。

3.今後の展開

これまでに、空腹時にFGF21の分泌が増加し、脂肪組織では脂肪分解作用があり、肝臓では脂質代謝を亢進し、ケトン体産生を促して低血糖に対し生体防御的なホルモン様機能を示す事が知られていました。一方、本研究から、血糖上昇時にはFGF21は食欲を抑え過血糖を抑制する事が示唆されます。従来の糖尿病薬では、治療過程で重度の低血糖を発症する恐れがありましたが、FGF21を糖尿病治療へと臨床応用することで、こうした懸念がいらない画期的な治療法につながると考えられます。

論文名

Fibroblast growth factor 21, assisted by elevated glucose, activates paraventricular nucleus NUCB2/Nesfatin-1 neurons to produce satiety under fed states

[日本語]
繊維芽細胞増殖因子21(FGF21)は、自由摂餌条件下の血糖上昇時に、室傍核のNUCB2/Nesfatin-1神経を活性化し満腹感を誘導する

Putra Santoso, Masanori Nakata, Kazuhiro Shiizaki, Zhang Boyang, Kumari Parmila, Zesemdorj Otgon-Uul, Koshi Hashimoto, Tetsurou Satoh, Masatomo Mori, Makoto Kuro-o and Toshihiko Yada

Scientific Reports, in press

参考図

参考図(説明は図の下に記載)
肝臓から放出されるFGF21は、高血糖時に選択的に視床下部室傍核Nesfatin-1ニューロンを活性化することにより摂食を抑制する。この作用は肥満・糖尿病・メタボリックシンドロームの改善につながる。

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掲載日 平成29年4月4日

最終更新日 平成29年4月4日