プレスリリース 「細胞間コミュニケーションを制御する新しい分子メカニズムを解明」―細胞表面タンパク質の切り出し放出を規定する新たな仕組み―

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立大学法人九州大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 細胞表面のタンパク質を切断して放出させる「シェディング」は、放出されたタンパク質が離れた細胞に作用できるようにすることで、細胞間コミュニケーションを制御する重要な分子機構です。
  • 本研究では、ゲノムDNAからタンパク質が作り出される過程で起こる「選択的スプライシング」と「糖鎖修飾」という2つの修飾機構が、作られたタンパク質がシェディングされるかどうかを厳密に決めていることを明らかにしました。
  • シェディングは炎症性疾患や細胞の癌化に深く関わるため、本研究成果は、選択的スプライシングや糖鎖修飾をターゲットにしたこれらの疾患の新しい治療方法の開発につながる可能性があります。

東京医科歯科大学医歯学総合研究科臓器代謝ネットワーク講座の白壁恭子ジョイントリサーチ講座准教授の研究グループは、分子内分泌代謝学分野の小川佳宏教授(兼 九州大学大学院 教授)らとの共同研究で、選択的スプライシングと糖鎖修飾という2つの修飾機構が、免疫細胞マクロファージの表面に存在するタンパク質がシェディングされて放出されるかどうかを厳密に決めていることを明らかにしました。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)の研究開発領域「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」(研究開発総括:永井 良三)における研究開発課題「細胞間相互作用と臓器代謝ネットワークの破綻による組織線維化の制御機構の解明と医学応用」(研究開発代表者:小川 佳宏)の一環で行われ、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)に、2017年4月10日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されます。本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されています。

説明図・1枚目(説明は図の下に記載)図1.シェディングを介した細胞間コミュニケーション
限られたタンパク質だけが切断・放出され信号を伝える

研究の背景

生物を構成する個々の細胞は互いにコミュニケーションをとりあって調和の取れた社会を構築しています。コミュニケーションの手段として主に用いられているのが細胞から放出される様々なタンパク質です。細胞がタンパク質を放出する方法には複数ありますが、細胞の表面につなぎとめられたタンパク質が切断されて放出される「シェディング」は、炎症性サイトカインや増殖因子などの細胞に重要なシグナルを伝えるタンパク質の放出を通じて、細胞間コミュニケーションを調節する重要な分子機構です(図1)。しかしながら細胞表面の全てのタンパク質がシェディングされることはなく、特定のタンパク質だけがシェディングされるようにする仕組みはほとんど明らかにされていませんでした。

研究成果の概要

本研究では、病原体を感知した免疫細胞マクロファージが活発に炎症性サイトカインをシェディングし放出することに着目し、タンパク質を網羅的に解析するプロテオミクス法により、活性化したマクロファージでシェディングされるタンパク質を選別しました。選別されたタンパク質の1つCADM1(Cell Adhesion Molecule 1)について詳細に解析したところ、ゲノムDNAを写し取ったメッセンジャーRNA前駆体(mRNA前駆体)から必要な部分を選び出して連結し、タンパク質の鋳型となるmRNAを作り出す「選択的スプライシング」により複数種類のCADM1タンパク質が作り出されること、その中でも特定のアミノ酸配列(図2、ピンク)を持つCADM1だけがシェディングされること、がわかりました。また別の選別されたタンパク質SIRPα(Signal-regulatory protein α)についても、シェディングされるかどうかが選択的スプライシングによって規定されることもわかりました。

次にCADM1のアミノ酸配列がどのようにしてシェディングされるかどうかを決めているのか調べたところ、CADM1タンパク質には切断を邪魔する糖鎖(図2、水色)が多数付いていること、このアミノ酸配列は糖鎖が付加する部位と細胞膜表面との間に存在し、切断のハサミとなるシェディング酵素が接近するスペースを生み出していること、がわかりました。これらの結果は、ゲノムDNAから細胞表面のタンパク質が作り出される複数のステップのうち、RNAのレベルで起こる「選択的スプライシング」とタンパク質のレベルで起こる「糖鎖修飾」という異なる2つの修飾機構により、作られたタンパク質がシェディングされるかどうかが厳密に決められていることを示しています。
説明図・2枚目(説明は図の下に記載)図2.選択的スプライシングと糖鎖修飾によりシェディングされるかどうかが決められる

研究成果の意義

選択的スプライシングや糖鎖修飾は多くのタンパク質で普遍的にみられる修飾機構であるため、様々な場所でおこる細胞間コミュニケーションがこれらの修飾機構によって調節されている可能性が示唆されます。シェディングにより放出される炎症性サイトカインや増殖因子は、炎症性疾患や細胞の癌化に深く関わるため、これらのタンパク質の放出を選択的スプライシングや糖鎖修飾を調節することで制限するような、新しい治療戦略の開発が期待されます。またCADM1自身に癌を抑制する働きがあることがわかっていますので、本研究の知見がCADM1のシェディングを軸とした細胞の癌化メカニズムの解明につながる可能性があります。

お問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
臓器代謝ネットワーク講座 白壁恭子(シラカベキョウコ)
TEL:03-5803-5216 FAX:03-5803-0172
E-mail:shirakabe.mem“AT”tmd.ac.jp

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 分子内分泌代謝学分野
九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学分野
小川佳宏(オガワヨシヒロ)
TEL:03-5803-5966 FAX:03-5803-0261
E-mail:ogawa.mem“AT”tmd.ac.jp

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掲載日 平成29年4月10日

最終更新日 平成29年4月10日