プレスリリース 水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞移植の医師主導治験を開始
プレスリリース
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
本プレスリリースのポイント
- 京都府立医科大学附属病院は水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞移植の医師主導治験を開始します。
- 今年度中に京都大学医学部附属病院と国立長寿医療研究センター病院から治験届を提出し3施設で実施する予定です。
- 先端科学を駆使して、水疱性角膜症に対する細胞移植に適した培養ヒト角膜内皮細胞を選別する技術と、同細胞を安定的に生産する技術を確立しました。
- 平成25年12月から平成28年3月までに、30例の臨床研究を実施し、本再生医療の安全性と有効性を確認し、POC(概念実証)を獲得しました。
京都府立医科大学附属病院は水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞移植の医師主導治験を開始します。今年度中に京都大学医学部附属病院と国立長寿医療研究センター病院から治験届を提出し3施設で実施する予定です。本学感覚器未来医療学(木下茂教授)、本学視覚機能再生外科学(外園千恵教授、羽室淳爾特任教授、上野盛夫助教)、医療フロンティア展開学(今井浩二郎講師)、同志社大学生命医科学部(小泉範子教授、奥村直毅准教授)を中心とした共同研究による成果です。
角膜の最内層を被覆する一層の角膜内皮細胞層は、角膜組織の含水率を一定に保ち、角膜の透明性を維持するために必須の細胞です。ヒトやサルなどの霊長類では、生体内では角膜内皮細胞が通常は増殖しないことが知られており、外傷や疾病、手術などによって広汎に障害されると、角膜の透明性を維持することができなくなり、角膜が浮腫と混濁を生じます。このような病態を水疱性角膜症と呼び、角膜混濁による視覚障害の主要な原因疾患となっています。現在、水疱性角膜症に対する唯一の治療法は、ドナー角膜を用いた角膜移植術となっています。
京都府立医科大学と同志社大学は共同で、角膜移植に代わる革新的な新規治療法としてドナー由来の角膜内皮細胞を生体外で培養拡大後、移入液に懸濁させた高機能な培養ヒト角膜内皮細胞を水疱性角膜症患者の前房内に移入する革新的な再生医療技術を開発し、平成25年12月に世界で初めて「培養ヒト角膜内皮細胞移植(前房内移入)」を実施いたしました。平成28年3月までに30例の臨床研究を実施し、これら30例の術後において本再生医療の安全性と有効性を確認しました。すなわち、移入された細胞が生着し、角膜が透明化することを全例で確認し、POC(概念実証)を獲得しました。
これらの成果をもとに平成29年3月30日に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に治験届「水疱性角膜症に対する培養角膜内皮細胞を用いた革新的再生医療確立のための探索的医師主導治験」を提出しました。
水疱性角膜症の主な原因の一つであるフックス角膜内皮ジストロフィは遺伝的な素因が関与し、欧米における潜在的有病率は約5%と報告されています。潜在患者が多数存在するため、角膜移植技術に比較し、広汎な医療機関で適用できる汎用性を持つ本再生医療技術の提供が全世界で強く望まれています。
本研究は日本医療研究開発機構「再生医療実現拠点ネットワークプログラム(再生医療の実現化ハイウェイ)」「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」「再生医療実用化研究事業」の支援を受けて実施しました。
背景と概要
水疱性角膜症は患者様のQOLを障害する難治性重症疾患です。角膜の最内層を被覆する一層の角膜内皮細胞層は、角膜組織の含水率を一定に保ち、角膜の透明性を維持するために必須の細胞です。ヒトでは生体内では角膜内皮細胞が通常は増殖しないことが知られており、外傷や疾病、手術などの侵襲によって角膜内皮細胞が広汎に障害されると、角膜の透明性を維持することができなくなり、角膜に浮腫と混濁を生じます。このような病態を水疱性角膜症と呼び、角膜混濁による視覚障害の主要原因疾患となっています。現在、水疱性角膜症に対する唯一の治療法は、ドナー角膜を用いた角膜移植術です。角膜移植患者の60%以上は角膜内皮機能不全ですが、本疾患に対する角膜移植の予後は不良で、難治な疾患である水疱性角膜症に対しての再生医学的手法による細胞治療の創出が強く望まれています。
治験について
1)今回の医師主導治験に至る経緯
平成25年12月に世界で初めて「培養ヒト角膜内皮細胞移植(前房内移入)」の臨床研究を実施いたしました。ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針に基づき11例、その後、再生医療等安全性確保法に基づき19例の合計30例の臨床研究を実施しました。
2)対象患者と方法
対象は、水疱性角膜症と診断されており、以下の規準を満たし、11項目の除外基準に抵触しない患者です。
- 最良矯正視力が0.5未満
- 角膜内皮スペキュラーマイクロスコープで角膜内皮細胞が観察できないか、もしくは角膜内皮細胞密度が500個/mm2未満
- 角膜厚が630μm以上、かつ角膜上皮浮腫が存在する
- 同意取得時の年齢が20歳以上90歳未満
- 本人から文書同意を得た
移入細胞量を3群に盲検化にて無作為割り付けを行います。被験者の病的角膜内皮組織を除去後、培養ヒト角膜内皮細胞の懸濁液を移入します。移入後は3時間以上のうつむき姿勢により移入細胞の内皮面への接着を図ります。移入後52週の経過観察にて、有効性と安全性を評価し、用量を検討します。
3)今後の展開
特記事項
1)京都府立医科大学 研究開発・質管理向上統合センター(CQARD)の紹介
京都府立医科大学は、140年余にわたり医学の発展に寄与する、わが国で最も古い医科大学の1つです。「世界のトップレベルの医学を府民の医療へ」をスローガンとして、大学に求められる教育、研究、診療のすべてで全国でも有数の実績を残してきています。大学院生や教員の相互の交流も盛んであり、基礎および臨床医学研究の十分な連携および協力体制が整っています。研究開発・質管理向上統合センターは2015年5月より本格的に活動を開始しています。その目的は、基礎研究から臨床研究・実用化までの一貫した支援・指導と研究倫理教育を重点的に実施するとともに、医学研究全般の科学性・倫理性を適正に担保し、研究の質管理を一元的に行うことです。
2)支援を受けた公的研究費
- 日本医療研究開発機構 再生医療実現拠点ネットワークプログラム(再生医療の実現化ハイウェイ)
- 日本医療研究開発機構 再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業
- 日本医療研究開発機構 再生医療実用化研究事業
用語解説
- ➀角膜内皮細胞
- 角膜内皮は角膜の後面を裏打ちする一層の組織で角膜の透明性維持に必須です。
- ➁水疱性角膜症
- 角膜内皮組織が機能不全に陥る水疱性角膜症では、重症な視力障害が生じます。従来の角膜移植は予後が不良で、新規治療法の開発が望まれています。
- ➂前房内細胞移入療法
- 病的角膜内皮組織を数分で掻把した後に、培養ヒト角膜内皮細胞を前房内に注射するもので、従前の角膜移植に比べて低侵襲的で簡便な医療技術です。前房内細胞注入により内皮細胞を再生させるという概念は、国際的にも革新的・独創的であると共に、患者への実利性を有する成果として高い評価を受けています。
- ➃医師主導治験
- 2003年の薬事法改正により、医師が企画し実施する治験が可能になりました。製薬企業による開発が進まない希少疾患などに対して、承認取得を目的とした治験を実施します。
お問い合わせ先
本発表資料の問い合わせ先
京都府立医科大学 研究開発・質管理向上統合センター
今井浩二郎・岩見弥生
〒602-8566 京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465
TEL:075-251-5308 FAX:075-251-5729
本リリースの発信元
京都府立医科大学 研究支援課 企画担当
中尾麻悠子
〒602-8566 京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465
TEL・FAX:075-251-5275
E-mail:kouhou“AT”koto.kpu-m.ac.jp
事業に関するお問い合わせ先
日本医療研究開発機構 戦略推進部 再生医療研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
TEL:03-6870-2220 FAX:03-6870-2242
E-mail:saisei“AT”amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成29年5月31日
最終更新日 平成29年5月31日