プレスリリース 牛難治性疾病の制御に応用できる免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)を,抗PD-L1抗体薬に続き開発

プレスリリース

国立大学法人北海道大学
国立大学法人東北大学
北海道立総合研究機構・農業研究本部畜産試験場
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

  • ウシの生体内で持続的に効果を示すPD-1を標的とした免疫チェックポイント阻害薬(抗ウシPD-1キメラ抗体)を新たに開発。これは,2017年4月27日に報道発表した免疫チェックポイント阻害薬(抗ウシPD-L1キメラ抗体)とは標的となる因子が異なる新規薬である。
  • 開発した抗体にはウシPD-1とPD-L1の結合を阻害する活性があることを確認。
  • 開発した抗体を牛白血病ウイルスに感染したウシへ投与すると,抗ウイルス免疫応答が増強され,ウイルス量が減少。
  • 免疫チェックポイント阻害薬は,牛難治性疾病に対する新規制御法として期待される。

研究成果の概要

家畜の感染症においてワクチンが樹立されている疾患はごくわずかです。牛難治性疾患においては免疫抑制の影響で,期待されたワクチン効果が発揮されない事象が認められ,新たな戦略が求められています。このような牛難治性疾病では,免疫チェックポイント因子PD-1/PD-L1を介してリンパ球の機能が疲弊化され,病態進行を助長することを,北海道大学大学院獣医学研究院の今内 覚准教授らの研究チームは明らかにしてきました。そのため,PD-1/PD-L1を標的とした阻害薬は,病原体に対する免疫応答を活性化し,牛難治性疾病の病態進行を防ぐことができる新たな治療薬になりうると考えられています。

本プレスリリースは,「牛難治性疾病の制御に応用できる免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体)の開発にはじめて成功(2017年4月27日プレスリリース)」の続報です。前回は免疫チェックポイント因子PD-1に結合するPD-L1を標的とした抗体薬の開発について発表しましたが,今回はPD-1を標的とした抗体薬の開発であり,動物でははじめての報告となります。

本研究では,ウシの免疫チェックポイント阻害薬として,抗ウシPD-1ラット-ウシキメラ抗体を開発しました。このキメラ抗体は,抗ウシPD-1ラット抗体の可変領域(抗原結合領域)と,ウシ抗体の定常領域(基本骨格)を融合させた抗体で,ウシの生体内から排除されにくくなり,より長期間効果が持続します。実際に,国内で増加傾向にある牛白血病をモデルとして実施した抗体投与試験では,抗体投与後に抗ウイルス免疫応答が活性化され,ウイルス量が減少しました。このように本開発技術は,牛白血病をはじめとした牛難治性疾病の新規制御法として応用が期待されます。

本研究の一部は,文部科学省科学研究費助成事業,農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業,国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター革新的技術開発・緊急展開事業及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)によって行われた技術開発です。

論文発表の概要

研究論文名:
Anti-Bovine PD-1 Rat-Bovine Chimeric Antibody for Immunotherapy of Bovine Leukemia Virus Infection in Cattle(抗ウシPD-1キメラ抗体の樹立と牛白血病に対する免疫療法への応用)
著者:
岡川 朋弘1,今内 覚1,西森 朝美1,前川 直也1,池渕 良洋1,後藤 伸也1,中島 千絵2,鈴木 定彦2,小原 潤子3,小笠原 諭4,加藤 幸成4,村田 史郎1,大橋 和彦11北海道大学大学院獣医学研究院,2北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター,3北海道立総合研究機構農業研究本部畜産試験場,4東北大学大学院医学系研究科)
公表雑誌:
Frontiers in Immunology
公表日:
日本時間 2017年6月7日(水)午後2時
(スイス時間 2017年6月7日(水)午前7時)(オンライン公開)

研究成果の概要

背景

牛白血病はリンパ球の増加や全身性の悪性リンパ肉腫を引き起こす疾病で,農林水産省から家畜の重要疾患に指定されています。2016年の牛白血病届出数は3,125頭で,家畜伝染病予防法が指定する99種の監視伝染病のうちウシの疾病では最多です。この発生数は届出伝染病に指定された1998年の30倍以上の値であり,未だ増加に歯止めがかかっていません。牛白血病の主な原因はレトロウイルスである牛白血病ウイルスの感染です。現在,既に日本の牛の約35%が牛白血病ウイルスに感染しており,感染牛の淘汰事業の実施は極めて困難な状況です。本病は北海道をはじめとした全国の酪農家にとって経済的損失の原因となっており,早急な対策を求める声は多いものの,ワクチンや有効な治療法がないのが現状です。

北海道大学大学院獣医学研究院では,生産者や臨床獣医師の依頼に応じて年間数千頭にのぼる牛白血病を診断してきました。一方で,臨床検体を用いて,牛白血病の病態発生機序の解析も同時に行ってきました。これまでの研究の結果,牛白血病の病態進行には免疫チェックポイント因子PD-1/PD-L1を介したT細胞の機能抑制(疲弊化)が深く関与することを明らかにしました。また,北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターの鈴木定彦教授,東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授及び北海道立総合研究機構畜産試験場の小原潤子博士との共同研究により,抗ウシPD-1ラットモノクローナル抗体を用いて免疫疲弊化機序を遮断すると,疲弊化した抗ウイルス免疫応答を再活性化できることがわかっています。

研究手法

本研究では,これまでの研究成果を基盤として,ラット由来の抗ウシPD-1ラットモノクローナル抗体を改変し,ウシ型キメラ抗体(抗ウシPD-1ラット-ウシキメラ抗体)を樹立しました。さらに本キメラ抗体を牛白血病ウイルスに感染したウシに投与し,抗ウイルス効果を検討しました。

研究成果

本研究で開発した抗ウシPD-1ラット-ウシキメラ抗体は,元の抗体と同程度に標的となるPD-1タンパク質へ結合し,PD-1とそのリガンドであるPD-L1の結合を阻害する活性を保持していました。さらに本キメラ抗体を牛白血病ウイルスに感染したウシへ投与すると,生体内での抗ウイルス免疫応答(T細胞応答)を増強し,ウイルス量を減少させることに成功しました。

今後への期待

本開発技術を基盤として開発されるバイオ医薬(抗体医薬など)は,ワクチンの有無にかかわらず効果を発揮でき,また,使用後に出荷制限がある抗生剤やステロイド製剤などの使用量の低減や代替医薬品として応用できる可能性があります。今後,開発した抗体を用いて様々なウシの疾病に対する実証試験を行うほか,より強い効果を示す医薬品の開発を進めていく予定です。なお,現地実証試験は北海道ひがし農業共済組合及び標茶町などの協力で今夏から開始予定です。

参考図

図1
図1本研究成果の概要

図2
図2抗ウシPD-1キメラ抗体投与による抗ウイルス効果

図3
図3牛白血病ウイルス感染による免疫応答の疲弊化機序と開発した抗体の効果

お問い合わせ先

内容に関するお問い合わせ先

北海道大学大学院獣医学研究院
准教授 今内 覚(こんない さとる)
TEL:011-706-5216  FAX:011-706-5217
E-mail:konnai“AT”vetmed.hokudai.ac.jp

東北大学未来科学技術共同研究センター/東北大学大学院医学系研究科
教授 加藤 幸成(かとう ゆきなり)
E-mail:yukinarikato“AT”med.tohoku.ac.jp

機構畜産試験場
研究主査 小原 潤子(こはら じゅんこ)
E-mail:kohara-junko“AT”hro.or.jp

広報に関するお問い合わせ先

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〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目
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E-mail:kouhou“AT”jimu.hokudai.ac.jp

東北大学大学院医学系研究科・医学部 広報室
〒980-8575 宮城県仙台市青葉区星陵町2-1
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E-mail:pr-office“AT”med.tohoku.ac.jp

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E-mail:20-DDLSG-16“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成29年6月7日

最終更新日 平成29年6月7日