プレスリリース 後頭葉の脳回形成の変化が統合失調症発症を予測することを解明

プレスリリース

富山大学
東京大学医学部附属病院
東邦大学
東北大学大学院医学系研究科・医学部
日本医療研究開発機構

富山大学附属病院神経精神科の笹林大樹助教、同大学大学院医学薬学研究部(医学)神経精神医学講座の鈴木道雄教授らのグループは、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野の笠井清登教授、東邦大学医学部精神神経医学講座の水野雅文教授、東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野の松本和紀准教授らと共同で、「統合失調症の発症高リスク群のうち、のちに発症する群は、発症しない群と比較して、左後頭葉の脳回の過形成を示す」ことを世界で初めて明らかにしました。この知見は、統合失調症の発症メカニズムの解明や早期診断法の開発に繋がる可能性があります。

今回の研究成果は、7月11日に米国科学誌「Biological Psychiatry」にオンライン掲載されます。

ポイント

  • 典型的な統合失調症の症状を発症する前段階と考えられる症例(発症高リスク群)を対象に、磁気共鳴画像(MRI)を用いて、大脳皮質の脳回形成(大脳皮質表面の入りくみ具合)を調べた。 
  • 発症高リスク群には、健常対照群と比較して、広範囲な大脳皮質領域において脳回過形成がみられ、胎生期の神経発達の変化を示すと考えられた。 
  • 発症高リスク群のうち、のちに統合失調症などを発症した群は、発症しなかった群と比較して、左後頭皮質の脳回過形成を示し、この所見はのちの発症を予測する変化と考えられた。
  • 本研究の知見は、統合失調症の発症メカニズムの解明や早期診断法の開発につながる可能性がある。

研究の概要

研究の背景

統合失調症ではさまざまな神経発達過程の変化を背景に脳機能異常が生じると考えられているが、その発症メカニズムや病態生理はいまだ十分に明らかにされていない。典型的な統合失調症の症状を発症する前段階と考えられるアットリスクメンタルステート(注1)の症例(発症高リスク群)を対象に、磁気共鳴画像(MRI)などの脳画像研究が行われているが、胎生期に生じる大脳皮質の脳回形成についてはほとんど検討されていない。

方法

アットリスクメンタルステートの専門外来をもつ国内4施設(富山大学、東京大学、東邦大学、東北大学)が共同し、発症高リスク群104人、健常対照群104人の脳MRIデータを収集した。2年以上経過を追跡できた発症高リスク群のうち、統合失調症などを発症したのは21人(発症群)、発症しなかったのは69人(非発症群)であった。画像解析ソフトウェア(フリーサーファー)を用いて、大脳皮質表面の入りくみ具合の指標である局所脳回指数(LGI)(注2)を測定し、群間で比較を行った。

結果

広範囲な大脳皮質領域のLGI値が増加していた<図1>。また、発症高リスク群のうち、のちに統合失調症などを発症した発症群では、発症しなかった非発症群と比較して、左後頭領域のLGI値が増加していた<図2>。

図1.発症高リスク群と健常対照群間のLGI値の比較
図2.発症群と非発症群間のLGI値の比較

考察と結論

本研究は、十分な症例数の発症高リスク群において、全脳の脳回形成を評価し、のちの統合失調症などの発症群/非発症群間で差異を見出した世界で初めての報告である。本研究の結果は、発症高リスク群では広範な大脳皮質領域に胎生期の神経発達の障害を示唆する脳回過形成が生じていること、また発症高リスク群における左後頭皮質の脳回過形成は将来の統合失調症などの発症を予測する変化であることを示している。

本成果は、統合失調症の発症メカニズムの解明、および発症高リスク群における将来の統合失調症発症を予測するための客観的補助診断法の開発に寄与できる可能性がある。

発表論文

論文名:
Increased occipital gyrification and development of psychotic disorders in individuals with an at-risk mental state: a multicenter study
雑誌名:
Biological Psychiatry
著者:
Daiki Sasabayashi, Yoichiro Takayanagi, Tsutomu Takahashi, Shinsuke Koike, Hidenori Yamasue, Naoyuki Katagiri, Atsushi Sakuma, Chika Obara,Mihoko Nakamura, Atsushi Furuichi, Mikio Kido, Yumiko Nishikawa, Kyo Noguchi, Kazunori Matsumoto, Masafumi Mizuno, Kiyoto Kasai, Michio Suzuki

用語説明

(注1)アットリスクメンタルステート(At-Risk Mental State:ARMS)
統合失調症に比較して、より軽度の症状や短期間の症状を示し、典型的な統合失調症の症状を発症する前段階が疑われる状態。実際に統合失調症などを発症するのは約30%である。
(注2) 局所脳回指数(Local Gyrification Index:LGI)
大脳皮質表面の構造の入りくみ具合の程度を示す指標。三次元MRI画像を用いて、脳溝まで入り込んだ内側の脳表面積を、脳回の表面を覆う外側の脳表面積で割ることにより算出される。

付記

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の障害者対策総合研究事業(精神障害分野)と革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト、日本学術振興会の科学研究費補助金などの支援を受けて行われた。

本件に関する問い合わせ先

研究に関すること

富山大学附属病院 神経精神科
助教 笹林 大樹(ササバヤシ ダイキ)
〒930-0194 富山県富山市杉谷2630
TEL:076-434-7323
E-mail:ds179“AT”med.u-toyama.ac.jp

富山大学大学院医学薬学研究部(医学)神経精神医学講座
教授 鈴木 道雄(スズキ ミチオ) 
〒930-0194 富山県富山市杉谷2630
TEL:076-434-7323
E-mail:suzukim“AT”med.u-toyama.ac.jp

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掲載日 平成29年7月11日

最終更新日 平成29年7月11日