プレスリリース パラミクソウイルス感染に重要な宿主タンパク質を発見―R2TP複合体がウイルスRNA合成を制御する―

令和元年5月24日プレスリリース

国立感染症研究所
日本医療研究開発機構

ポイント

  • ヒトや動物に様々な病気を起こすパラミクソウイルスの治療薬(抗パラミクソウイルス薬)はまだ存在しません。
  • 細胞のR2TP複合体がパラミクソウイルスのRNA合成に重要であることを明らかにしました。
  • この成果は抗パラミクソウイルス薬の開発につながることが期待できます。

解説

国立感染症研究所の加藤大志らの研究グループは、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)において、R2TP複合体と呼ばれる宿主因子がパラミクソウイルスの増殖に重要な役割を持つことを明らかにしました。

パラミクソウイルス※1には、ムンプスウイルスや麻疹ウイルス、パラインフルエンザウイルス、ニパウイルスなど、ヒトや動物に大きな影響をもたらす病原体が数多く含まれます。パラミクソウイルス感染症の中で有効なワクチンがあるのはムンプス(おたふくかぜ)と麻疹のみで、他のパラミクソウイルスはワクチンで予防することができず、いずれのパラミクソウイルスに対しても特異的な治療法はありません。古くから知られたムンプスや麻疹の制御だけでなく、ニパウイルスのようなさらに重篤な新興感染症の対策を考える上でも、幅広いパラミクソウイルスを標的とした治療法の開発が望まれています。

本研究グループは、ムンプスウイルスや麻疹ウイルスのRNA合成に関わる宿主因子としてR2TP複合体※2を同定し、その役割について解析を行いました。その結果、R2TP複合体はウイルスのポリメラーゼタンパク質(Lタンパク質)※3と相互作用することで、パラミクソウイルスのRNA合成を制御する因子であることが明らかになりました。

本研究では、まずムンプスウイルスのLタンパク質と相互作用する宿主因子を探索しました。その結果、RuvBL1、RuvBL2、PIH1D1およびRPAP3の4つのタンパク質で構成されるR2TP複合体が同定されました。その中のRPAP3をsiRNA※4を使ってノックダウン※5すると、ムンプスウイルスのRNA合成量が増加しました(図1A)。しかし、その効果は感染後48時間までで、感染後72時間以降のウイルスRNA量やウイルス産生量は低下しました(図1B)。

この原因を調べたところ、RPAP3ノックダウン細胞ではムンプスウイルスの感染に伴って自然免疫が強く誘導されていることが示されました(図1C:IRF3※6の核移行を示している)。すなわち、RPAP3のノックダウンによって過剰に合成されたウイルスRNAが宿主の免疫応答を刺激した結果、ウイルス増殖が抑制されたと考えられます。よって、R2TP複合体はムンプスウイルスのRNA合成を適切に調節することで、ムンプスウイルスの増殖を助ける因子であると考えられました。


図1 ムンプスウイルス感染におけるR2TP複合体の役割
A.R2TP複合体を構成するRPAP3をノックダウンした細胞ではコントロール細胞に比べて、ムンプスウイルスのRNA量が約2.5倍増加した。
B.ムンプスウイルスのRNA量は感染48時間まではノックダウン細胞の方が高いにも関わらず(左図)、その後のウイルスRNA量やウイルス産生量はコントロール細胞に比べて低下した。
C.感染48時間後のノックダウン細胞において、ムンプスウイルス感染に伴うIRF3の核移行が観察され、自然免疫の活性化が示唆された。

麻疹ウイルスについても、R2TP複合体とLタンパク質との相互作用や、RPAP3ノックダウンによるウイルスRNAの増加が観察されました(図2A)。ただ驚いたことに、ムンプスウイルスの場合とは対照的に、麻疹ウイルスの産生量は増加しました(図2B)。このことは、パラミクソウイルス種間において、免疫反応への抵抗性が異なることを示唆しています(図3)。

RNAの合成過程はウイルスの増殖および病原性を規定する重要なステップであり、ウイルス感染症の治療標的の一つと考えられています。本研究で明らかにしたR2TP複合体を介したパラミクソウイルスのRNA合成調節機構は、まだ治療薬のないパラミクソウイルス感染症の制御に向けた重要な知見になることが期待されます。


図2 麻疹ウイルス感染におけるR2TP複合体の役割
A.RPAP3をノックダウンした細胞ではコントロール細胞に比べて麻疹ウイルスのRNA量は約3倍増加した。
B.麻疹ウイルスのRNA量は感染期間を通してRPAP3ノックダウン細胞で高く(左図)、ウイルス産生量もRPAP3ノックダウン細胞で高かった(右図)。

図3 R2TP複合体によるパラミクソウイルスRNA合成調節
R2TP複合体によってパラミクソウイルスのRNA合成は適切な制御を受けているため、宿主の免疫応答は最小限に抑えられている(左図)。
R2TP複合体がノックダウンされた細胞では過剰にウイルスRNA合成が起こり、ムンプスウイルス感染細胞では免疫反応によってウイルスの増殖は抑制される(右図)。
一方、麻疹ウイルス感染細胞においてもR2TP複合体のノックダウンによって、ウイルスRNA合成の亢進は起こるが、免疫反応による増殖抑制は認められない。

本研究への支援

  1. 日本学術振興会科学研究費 若手研究B、上皮組織におけるパラミクソウイルスの感染機構の解明」(研究代表者:加藤 大志)
  2. 日本医療研究開発機構(AMED)感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)、「オミックス解析を用いたパラミクソウイルス感染における宿主-ウイルス相互作用の解明」(研究代表者:加藤 大志)
  3. 日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、「安全性・有効性、および利便性を兼ね備えた新規ムンプスワクチンの開発に関する研究」(研究代表者:木所 稔)
  4. 武田科学振興財団 医学系研究助成金、「ポリメラーゼの成熟過程から見たパラミクソウイルスのRNA複製機構の解明」(研究代表者:加藤 大志)

論文

タイトル:
The R2TP complex regulates paramyxovirus RNA synthesis.
著者名:
Katoh H, Sekizuka T, Nakatsu Y, Nakagawa R, Nao N, Sakata M, Kato F, Kuroda M, Kidokoro M, Takeda M.
雑誌名:
PLoS Pathogens
公開時間、URL:
2019年5月23日11時(米国太平洋標準時)公開予定
http://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1007749
DOI:
10.1371/journal.ppat.1007749

用語解説

※1 パラミクソウイルス:
非分節マイナス鎖RNAをゲノムとしてもつRNAウイルス。ムンプスウイルス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)や麻疹ウイルス(はしか)、パラインフルエンザウイルスなどの小児の重要な感染症だけでなく、致死的な脳炎を引き起こすニパウイルスなど数多くの医学上重要な病原体を含む。またイヌジステンパーウイルスや牛疫ウイルスなど獣医上重要な病原体も含まれる。
※2 R2TP複合体:
RuvBL1-RuvBL2-PIH1D1-RPAP3の4つのタンパク質で構成されるタンパク質複合体。様々なタンパク質-タンパク質複合体またはタンパク質-RNA複合体の形成に関わると考えられているが、まだ詳細な機能については明らかになっていない。
※3 L(Large)タンパク質:
パラミクソウイルスのRNA合成を担うポリメラーゼタンパク質。
※4 siRNA(small interfering RNA):
21-23塩基対からなる二本鎖RNA。標的とするmRNAに結合し、mRNAを分解または翻訳を停止することで、タンパク質発現を抑制する。
※5 ノックダウン:
siRNAを用いて、細胞内のタンパク質を減少させること。
※6 IRF3(Interferon regulatory factor 3):
通常は主に細胞質内に発現している分子であるが、細胞内の病原体認識に伴って活性化する。活性化したIRF3は核へ以降し、 I型インターフェロンの発現を誘導する。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ先

国立感染研究所 ウイルス第三部
主任研究官 加藤大志
E-mail:kato0704"AT"nih.go.jp

AMED事業に関するお問い合わせ先

日本医療研究開発機構 戦略推進部感染症研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
TEL:03-6870-2225
E-mail:jpride"AT"amed.go.jp

報道に関するお問い合わせ先

国立感染研究所 総務部調整課
TEL:03-5285-1111
E-mail:info"AT"nih.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

最終更新日 令和元年5月24日