成果情報 バイオバンクの構築と活動に関するバイオバンク自己点検票―ISO 20387:2018 の作成を通じて得た考え方を生かして―

成果情報

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

日本医療研究開発機構(AMED)のゲノム創薬基盤推進研究事業 A‐①:検査品質・精度確保課題―バイオバンクの連携体制とゲノム医療に係る検査の品質・精度を確保する国際的基準を構築する課題―「バイオバンク及びゲノム医療に係る検査の品質・精度の国際的基準構築と実施、及びバイオバンクの連携体制構築に関する研究」(研究代表者:国立精神・神経医療研究センター 増井徹)は、バイオバンク自己点検票を作成しました。

ヒト試料と情報から「まるのままの人間の生理」が理解できる時代がきた

測定技術の進展とそれを利用した研究成果により、ヒトに由来する生体試料から多くの情報が得られるようになりました。現在、その情報をもとにして、それらの試料や情報が由来する者の個別の生理状態を推測することができるようになりました。

試料と情報に高い品質が求められるようになった

試料と情報が注目され、利用されるようになり、これまで収集されていた試料と情報が、研究者の利用目的を満すことができないという事例も多く知られるようになってきました。バイオバンクはその創設にあたり、利用形態を予想して、ヒト生体試料の収集、処理、保管を計画・実行するが、数を集めることに集中するあまり、試料の性質を知るための情報(由来者の情報と採取後の品質管理情報)の収集・記録に、国内外のバイオバンクともに熱心でなかったという反省もあります。

ISO/TC276WG2 Biobank and Biobanking

そのような背景のもと、ISO/TC276 Biotechnologyは、バイオバンク活動の基本要求事項をWorking Group(WG2)で検討しました。AMED研究班として、我々は、その検討に参加し、バイオバンク活動の国際規格の作成に協力しました。ISOの国際認定規格として作成されたISO 20387:2018 General requirements for biobankingは、ISO或いは日本規格協会(JSA)が版権を所有します。今後、それを利用して日本認定協会(JAB)によるバイオバンクの認定が行われる予定です。

ISOの国際規格文書の意味

ISOは多くの文書を作成し、販売しています。しかし、それらの中で、認定や認証のために利用される文書の数は多くありません。国内委員会の中の議論をもとにすると以下のように書くことができます。

「『共通言語と比較可能性』により、利害関係者の対話と建設的(競争的)連携の可能性を高めることに利用できる考え方が国際標準であり、ISOの国際会議では多様な国から参加する国際Expertの議論とコンセンサスから、国際標準が紡がれる。」

ISO 20387:2018 General requirements for Biobankingは日本のバイオバンクにとってどのような意味を持つか

大規模で、戦略的な資金・資源(特に人的)を有するバイオバンクは、ISOの認定に対応できる可能性が高いです。現在でもいくつかの国内バイオバンクはISO 9001の認証を得ています。しかし、国内の多くの中小のバイオバンクは、ISOの認定を取得し維持する余裕がないと予想されます。この環境の中で、ヒトの試料と情報の収集・利用研究活動が多様に発展し、個別の研究者のアイデアが育つ環境が重要であると本研究班は考えています。その中小規模の活動が有効に生かされるためには、ヒト試料と情報を用いた小規模な研究、中小規模のバイオバンクを利用した研究成果が、標準化された大規模な研究と比較可能となる枠組みが必要となります。

そこで、本研究班は中小規模のヒト試料と情報を取扱うバイオバンク活動が、対応可能な粗な枠組みを提供するために、「バイオバンク自己点検票」を作成しました。

バイオバンク自己点検票の作成

国際的には、バイオバンク活動が、標準化という考え方へ動くことは避けられないと考えています。それはこれまでの再現性のないヒト試料と情報を使った研究への苛立ちを反映しています。

バイオバンク自己点検票の作成は、日本において、標準化という考え方の一端を具体的に伝える手段の一つと考えています。作成にあたり、本研究班の関係者を含めて、14人のバイオバンク関係者から20回の検討の機会を得ました。また、関わったバイオバンク関係者からは、バイオバンク自己点検票が自己の活動の見える化に役立つという意見を得ました。バイオバンク自己点検票の多くの項目は、バイオバンク自体が決めて基準を作る必要があります。それは、バイオバンク事業の取扱う試料と情報が多様であることと、バイオバンク活動の場の多様性をカバーする必要があるからです。すなわち、バイオバンクは自己の判断で、研究者にとって説得力のある基準・手順を作ることが重要となります。その参考となる文書は多く公開されています。

  1. 本研究班は、ISO 20387:2018 の日本語訳を、ISO/TC276国内委員会のWG2分科会のメンバーと行いました。日本語訳は、JSAの校閲をうけ、版権をJSAが所有しています。現在、英語版と日英対照版がJSAから出版されています。
    ISO 20387:2018 バイオテクノロジ-バイオバンキング-バイオバンキングの一般要求事項 | 日本規格協会 JSA Group Webdesk
  2. 日本語の用語を含めて、バイオバンク自己点検票とISO文書に重なりが大きいと、自由な利用ができません。例えばAMEDホームページから自由なダウンロードを可能とするためには、ISO本文との重なりが、著作物全体の25%以下であることが要求されています。そこで、今回のバイオバンク自己点検票は、ISO本文との文書の重なりを10%未満まで下げました。一方、JSAは文書の文言の重なりにはこだわるが、アイデア・考え方の知財クレームはしないという点は幸いでした。そこで、国際規格作成での議論とISO文書の考え方の一部を生かすことができました。

本バイオバンク自己点検票を利用するバイオバンク、或いはヒト試料と情報を取扱う利用者のメリットは以下のとおりです。

  • ① 自己点検票が自らを写す鏡或いは物差しとして自らの活動を客観化する。
  • ② それは、自分たちの目的と目標の適切性を検討する機会になる。
  • ③ 自己点検を通じて、自分たちの強さと弱さを知ることは、バイオバンクの継続性と戦略にとって重要である。
  • ④ 多様なバイオバンクの連携を考えると、バイオバンク自己点検票という型紙があることで、相互の比較性が高まり、連携の可能性が高まる。

おわりに

バイオバンク自己点検票の利用が、バイオバンク活動を円滑にし、ヒトの試料と情報を用いた研究の比較可能性を高めることにより、バイオバンク活動に試料と情報を提供した由来者の意思が生かされ、その結果、バイオバンク活動の比較性が高まり、医学研究が進展し患者・社会の福祉に、貢献することを期待します。 

本バイオバンク自己点検票は通過点です。よりよいものにするために、利用される方々のご意見をいただければと思います。ご意見は、国立精神・神経医療研究センター 増井宛(tmasui”AT”ncnp.go.jp)にお送りください。

お問い合わせ先

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
メディカルゲノムセンター
増井 徹
E-mail:tmasui”AT”ncnp.go.jp

AMED事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
ゲノム・データ基盤事業部 ゲノム医療基盤研究開発課
ゲノム創薬基盤推進研究事業事務局
〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目7番1号 読売新聞ビル22F
TEL:03-6870-2228 FAX:03-6870-2244
E-mail:genomic-medicine“AT”amed.go.jp

※E-mailアドレスは”AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 令和2年9月1日

最終更新日 令和2年9月1日