成果情報 製薬企業へのヒト組織提供―日本初の「琉球大学産業利用倫理審査委員会」による承認―難病に対する再生医療等製品の開発加速へ

成果情報

琉球大学
日本医療研究開発機構

背景

近年、我が国では再生医療等製品の開発やその周辺産業が活発化していますが、さらなる発展のためには国内におけるヒト細胞原料の安定的な供給もひとつの重要な要素であると考えられます。しかしながら、ヒト細胞原料の採取・供給やその活用においては、法律や手続き、倫理的観点や社会の理解など様々な課題が存在することから、経済産業省や日本医療研究開発機構(AMED)ではそれらの課題を整理、検討し、その解決に向けた取り組みを進めています。再生医療等製品の製造に使用できるヒト細胞原料の安定的な供給を実現することは、再生医療による新しい治療法の開発や安定的な医療の提供につながることが期待されます。

概要

琉球大学は2018年度~2020年度にかけて日本医療研究開発機構(AMED)から委託を受け、全学をあげて上記の課題の解決に取組みました*1。特筆すべきことは2020年7月に大学規則の改正と新規則の制定を行い、日本初の「産業利用倫理審査委員会」を設置したことです。この委員会は既存の倫理審査委員会とは別に、従来は難しかった「ヒト組織を産業目的で使用」することについて専門的に審査する役割を持った委員会です。再生医療や生命倫理、産学連携に識見を有する委員から組織され、かつ外部委員を過半数以上含み、中立性・公平性を保つ体制としました。また同年10月には「琉球大学病院みらいバンク」を設立し、琉球大学病院と企業が協働してプロジェクトを推進できる体制を整えました。これらの取組みにより琉球大学からヒト組織を製薬企業に適切な形で提供できる体制を構築しました。これにより製薬企業はヒト組織を入手し易くなり、再生医療等製品の開発が加速することになります。

実際の運用として2021年1月にロート製薬株式会社から琉球大学にヒト脂肪組織提供の依頼があり、2月12日に第1回となる琉球大学産業利用倫理審査委員会が開催されました。複数回の厳格な審査を経て、2021年8月3日に琉球大学からロート製薬株式会社へのヒト脂肪組織の提供が承認されました。11月17日には脂肪吸引を行った患者さんから企業への提供に関する同意を得て、通常は廃棄される脂肪組織の一部を保存処理し、ロート製薬へ提供しました。現在、ロート製薬ではその脂肪組織から脂肪幹細胞を抽出し、その数を順調に増やしている状況です。現在、複数の製薬企業がこの「産業利用倫理審査委員会」を通じたヒト組織の提供について審査・承認を目指しています。(図1)

図1 事業の実施体制
代表者:琉球大学大学院 医学研究科 形成外科学講座 教授 琉球大学病院みらいバンク長 清水雄介

このように琉球大学が適切な審査体制でヒト組織を製薬企業へ提供できる体制を構築したことで、日本全体の再生医療産業が大きく前進したといえます。これにより難病で困っている多くの患者さまに新しい治療手段を届ける可能性が広がります。現在はAMEDの支援の下、「琉球大学を起点としたヒト細胞原料供給体制の実装」*2として事業を継続しており、将来的には琉球大学からアジア諸国へもヒト組織を提供できる体制を構築したいと考えています。

成果

再生医療等製品の製造に使用できるヒト組織の採取・供給やその活用においては、法律や手続き、倫理的観点や社会の理解など様々な課題が存在し、再生医療産業発展のハードルとなっていました。琉球大学で設立した日本初の「産業利用倫理審査委員会」での審査を経ることで、再生医療等製品の開発を目指す製薬企業に対してヒト組織を適切な形で提供することが可能となりました。これにより、これまで治療が難しかった疾患に対する治療が加速する体制が整い、日本の再生医療産業が大きく前進したといえます。

研究プロジェクトについて

本成果は、AMEDの以下の事業による助成を受けて実施した取組の成果になります。

  • *1「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(国内医療機関からのヒト(同種)体性幹細胞原料の安定供給モデル事業)」
    (2018年度~2020年度)
    課題名「琉球大学を起点としたヒト(同種)体性幹細胞原料の安定供給システムの構築」
  • *2「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(再生医療等製品用ヒト(同種)体性幹細胞原料の安定供給促進事業)」
    (2021年度~)
    課題名「琉球大学を起点としたヒト細胞原料供給体制の実装」

お問い合わせ先

事業内容について

琉球大学大学院 医学研究科 形成外科学講座 清水雄介
メールアドレス : yyssprs"AT"gmail.com

報道対応について

琉球大学上原キャンパス事務部企画課企画係
TEL:098-895-1541 FAX 098-895-1544
メールアドレス:kkikaku"AT"acs.u-ryukyu.ac.jp

みらいバンクについて

琉球大学病院 みらいバンク 事務局
メールアドレス:prj.miraibank"AT"gmail.com

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構(AMED)
再生・細胞医療・遺伝子治療事業部 再生医療研究開発課
TEL:03-6870-2220 FAX:03-6870-2242
再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業
メールアドレス:saisei“AT“amed.go.jp

※メールアドレスは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 令和4年1月14日

最終更新日 令和4年1月14日