2016年度 研究事業成果集 インフルエンザ制圧を目指した革新的治療・予防法の開発

インフルエンザ制圧を目指した革新的治療・予防法の開発

戦略推進部 医薬品研究課

新しい抗ウイルス薬開発、高効率なワクチン製造に向け新発見続々

東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らは、インフルエンザの制圧を目指し、ウイルス感染と宿主因子の相関を体系的・包括的に解明する研究を進めています。従来の課題を克服しながら、耐性が出現しにくい抗ウイルス薬の開発、生産性の高い培養ワクチン製造システムの構築などに取り組んでおり、新たな発見が相次いで発表されています。

取り組みと成果

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らは、遺伝子操作によりプラスミド(細胞内の核外に存在するDNA分子の総称)からインフルエンザウイルスを人工的に合成する技術を、世界で初めて開発しました。この技術(リバース・ジェネティクス法)により、インフルエンザウイルスのワクチン株の作成が容易になり、季節性・新型インフルエンザ対策に大きく貢献しています。AMEDでは、革新的先端研究開発支援事業で支援しており、この2年間で新たな成果が報告されました。

① 培養細胞のウイルスの低増殖性を改善
培養細胞で増殖させたインフルエンザウイルスは、主要な抗原が変異しないため有効性が高いのですが、ウイルスの増殖能力の低さがワクチン製造上の問題となっていました。河岡教授らのグループはリバース・ジェネティクス法を使い、培養細胞で高い増殖能力を持つA型インフルエンザウイルスの作出に成功しました。さらに同様の方法で、培養細胞で高い増殖能力を持つB型インフルエンザウイルス作出にも成功し、2つを合わせることによって、従来より有効性の高い季節性インフルエンザワクチンを、効率よく生産することが可能になりました。
培養細胞におけるウイルスの低増殖性を改善
② 季節性インフルエンザウイルスの抗原変異の予測技術を開発
ワクチン製造で使われるウイルス(ワクチン株)と実際に流行するウイルスとの間でHAの抗原性が一致しないと、ワクチンの予防効果が弱まります。河岡教授らのグループは、多様な抗原を持つ季節性ウイルス株の集団を人工的に作出し、遺伝子や抗原の性状を分析することによって、従来より高い精度で予測できる技術を開発しました。
季節性インフルエンザウイルスの抗原変異の予測技術を開発
③ ウイルス増殖のメカニズムの解明
インフルエンザウイルスが宿主に感染した際に、ウイルス増殖過程で宿主側のタンパク質「CLUH」が、ウイルスゲノムの核内輸送に関与していることを発見し、核内輸送の制御機構を解明しました。
ウイルス増殖のメカニズムの解明(核内輸送の制御機構)

最終更新日 平成30年10月5日