2016年度 研究事業成果集 慢性疼痛のメカニズム

慢性疼痛のメカニズムを解明

基盤研究事業部 研究企画課

末梢神経が損傷すると脳内細胞の活動が亢進し神経回路が再編成する

事故などで外傷を負った後、ケガをした部位が治癒しても、長期にわたり痛みが続く場合があります。この難治性慢性疼痛のメカニズムは、ほとんど解明されていませんでしたが、この研究によって脳内の「アストロサイト」と呼ばれる細胞が深く関わっていることが分かりました。今後、この細胞をターゲットにした予防や新しい治療、創薬につながると期待が持たれています。

取り組み

革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)の一環として、自然科学研究機構 生理学研究所の鍋倉淳一教授を中心とし、山梨大学、福井大学、理化学研究所、韓国慶熙大学校との間で共同研究が行われました。末梢神経を損傷したマウスの脳内神経ネットワークを、2光子励起顕微鏡を用いて長期間繰り返して観察する研究が進められました。

研究成果

大脳皮質の痛みに関わる部位で、末梢神経損傷の刺激を受けると中枢神経系のグリア細胞の一種、アストロサイト*1の未熟化が起こり、図のように、その活動が亢進することが分かりました。さらに、小胞体のIP3受容体からカルシウムイオンが放出され、神経細胞間のつながりを再編成させる因子であるトロンボスポンジン*2を産生。大脳皮質の痛みや触覚などの感覚情報を処理する脳部位の神経回路に再編成が起きました。さらに再編成された神経回路は、末梢の触覚刺激に対して過剰な反応を引き起こすようになりました。アストロサイトの活動は収束していきますが、未熟化したアストロサイトにより一度再編成された異常な神経回路は長期にわたり維持され、末梢を触っただけでも痛みを感じる「アロディニア」という症状が長期間持続することが分かりました。

解明されたメカニズム

展望

患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を著しく低める難治性痛覚異常は、一般の鎮痛薬が効きません。慢性疼痛のメカニズムが分かったことで、大脳皮質アストロサイトの活動を制御することをターゲットとした新たな治療法や創薬の開発につながることが期待されます。

*1 アストロサイト:
グリア細胞の1つ。神経伝達物質の取り込みや脳血流の制御などの役割を果たす
*2 トロンボスポンジン:
糖タンパクの1つ。発達初期にアストロサイトから放出される物質で、シナプス形成に重要な役割を果たす

最終更新日 平成30年10月5日